第8話 三人娘とお茶会。

 皇宮へと居を移し、そこで生活をするようになって数日が過ぎた。

 前世の私からすれば、あの離宮での住まいも素敵だったけれど。

 瀟洒な建物で、今の宮の庭に比べれば猫の額のような小さな庭だったけれど、きちんと庭師が付いて手入れされていた。常に花の香りに満たされていたし。


 皇宮に居るのだから、きっとお兄様と会えるだろうと思っていた。

 だって、お兄様も住んでる所らしいから。

 産まれてから一度も会った事はないとはいえ血を分けた兄妹である。

 もしかしたら会いに来てくれるかも? なんて期待もちょっぴりある。


 優しく聡明で莫大な魔力持ちの何コレチート?なお兄様。

 お喋りなメイド3人の情報によると、とても将来が楽しみな絶世の美少年だそう。

 自国どころか他国ですら見かけた事ない美貌の皇子と言われているらしい。


 ――――なにそれリアル乙女ゲームキャラじゃないソレ。

 そんな事を訊いてしまえば、ますます会いたくなるじゃない。

 美しいは正義、まして絶世の美少年が兄! 素晴らしい!


 期待が天井知らずになった私だったけれど・・・

 現在、お兄様は即位の準備だけでも忙しいというのに、他国に赴いていて、この国に居ないらしいのだ。

 その他国も長居はせず、一両日中には移動してるとのこと。

 国と国を慌ただしく移動していると訊いた。


(ふぅん・・・子供が皇帝陛下になる訳だから挨拶周り的な根回しとかなのかしらね?

 他国が関係するの? ヴァイデンライヒって結構な大国だってアンナから訊いたけどなー。国を背負って立つのって大変なんだなーやっぱり。)


 パパラチアサファイアを持たぬ私には皇位継承権はない。

 だからこそ、こうやって暢気に考えられるのかも。


 そんな超絶美少年の兄が十歳を迎えたら、皇帝に正式に即位するそう。

 今現在は、暫定的な皇帝といった感じらしい。

 即位式で継承をしなければ、本当の皇帝として立つことは出来ないんだそうだ。


 暫定的ではあっても兄が皇帝になる事は確定路線らしいから、形式的な事なのかもしれない。


 今、皇帝の席は空いている。

 十歳と幼い為、誰か代行を立てるって話もあったらしいんだけど。

 優秀な皇子ということで、年齢の若さに関係なく即位となった。

 誰か代行立てても、慌ただしい粛清の後ということもありどの派閥でも混乱が起きるだろうという事なのかもしれない。


(これはアンナに訊いたんじゃなくて、メイドさん達が話してる会話の内容をいくつか訊いて何となくまとめた私見ってところだ。)


 そんな私は兄よりも幼い5才なので、戴冠式に参加する事も出来ない。

 戴冠式の話は、護衛の為に参加する騎士にでも聞こうと思う。


 お兄様に会えるのはまだ先かもなー、別に寂しくはないからいいんだけど。

 生まれてから一度も会ってない相手だし。恋しくなんて思えない。

 代わりにアンナに会えなかったら泣く。体中の水分が出るくらい泣き暮らす。


 そういうものだと思う。




 アンナによって3時と設定された、5人で仲良くお茶タイム。

 1人で啜るお茶なんて寂しいからとごねにごねて、最終的に泣き落としでアンナの許可をもぎ取った私。

 月の宮の庭限定なら3人娘ともお茶の許可が出た。

 当初アンナは「私はお茶に参加しません」の一点張りだったけど、

「アンナが居ないとする意味がない!私のお茶会に私が一番大好きなアンナが居ないのはおかしい!」

 と訴えたら、アンナは頬を染めてあっさり参加してくれた。


 ――――アンナちょろいですね。変な男には気をつけてね。


 今日のお茶は少し酸味のあるローズヒップティー。

 美肌効果もあるので女子に大人気だ。


 高価な甘いお菓子に、美味しいお茶…女の子の口もより軽くなるってもの。

 うっかりイケメン情報を漏らしたり?

 どこぞのメイドが騎士の誰と恋仲とかいうお話もでたり?

 あの令嬢が鍛錬場に足繁く通うのは、誰が目当てだから。

 などなど……軽くなるのは仕方がないのである。

 ――――それが狙いとは言わない。


 アンナは始終眉間に皺を寄せて、たまに小さな溜息を零してるけど。


 見た目5才の私の楽しみなんてこれくらいしかないのよ!

 絵を描くのも積み木を積むのも、花を愛でるのもちょっと飽きたの!

 キャッキャウフフが欲しいの……


 たまには頑張って絵描くから、お茶の席では許してちょうだいね!


「ねぇ、みなさん。わたくし、きしだんのたんれんをみにいきたいです」

 稚拙な言葉でたどたどしく話す。


 3人娘がギョッとした顔でクラウディアを見た。


 実は本人に自覚はないが、もう最近では5才児らしからぬ大人びた話し方をしていた。

「うちの姫様は、流石シュヴァリエ様の妹だけあって聡明でいらっしゃる」

 と周囲は認識している。


 そんなクラウディアが、急に幼児っぽい話し方をしたので、

「何で急に頭の弱い話し方を…?」と思われたのだが、本人は気付いてない。


「きしだんは、くにをまもるたいせつなおしごとです。まもってくれてありがとうとつたえたり、たんれんしているすがたをみたいです」


 姫だから、また離宮の様に囲われ仕様なのかな…

 そんなつまらないのは嫌だわー。


「そうですね。姫様も毎日宮に閉じこもってばかりでは、よくありませんね。護衛の者達と話し合って日程を決めましょうか。」

 アンナが仕方がないですねって感じで認めてくれた。


 ――――やった!大好きアンナ!


「まだ姫様付きの正式な護衛も決めてないですし、見学がてら候補になりそうな者を選ぶのもいいかもしれません。」


「ありがとう、アンナ。そうします。」

 神妙な表情を取り繕って同意しておいた。


 3人娘も「そういえば、そうですわね」と頷く。


 私の心の中では、要望が通った喜びにサンバの音楽が鳴り響いてる。


 どんなイケメン騎士がいるのかなー、護衛として選出した人達と3人娘の恋…

 イイ!恋バナが聞ける日も近いなコレは!

 私の楽しみがまた増える。

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