Episode05 大団円
#01 ピア
…――晴夜よ。ワシじゃ。
意識を失ってしまった晴夜は、一人、虚空の中、震えて丸まったまま浮き続ける。
……聞こえるか?
どこか遠くから聞こえる懐かしき声。
己が信じていた力こそが全てという価値観を砕かれてしまい、それこそ全てを拒絶してしまっている晴夜。虚空の大気は、さざなみのよう体を揺らす。まさにさざなみの揺り籠とは、今、晴夜がおかれている状況を指すようにさえも思える。
……もうなにもかもがどうでもいい。
わたくしは、眠いんです。
と目をつむったまま思う。
聞く気がない晴夜に、少々、呆れながら声は優しく続ける。
お主は、自分が弱かったからワシの足を引っ張ったと後悔しておるのであろうが?
しかし、ソレは違う。あの不幸はワシがお主を守る為に一歩を踏み出すのが遅れたのが原因なのじゃ。そうであろう? 思い出せ。あの時、イタコ殿は何も考えず、お主を助けに一歩を踏み出した。そして、さざなみの揺り籠で、お主を解き放った。
対して、
ワシは、どうであったか?
ワシは、お主があの場に居た事に驚いてしまい、一歩が遅れてしまっていたのだ。
だからこそニータン・後島に喰われたお主を体内まで助けに向かわねばならなかった。そして、お主を取り込んだニータン・後島を内部から破壊するしか、道はなくなった。そうじゃ。全てはワシの一歩が出遅れた事が招いた不幸なのじゃ。
ゆえに、
あの瞬間、ワシは、ワシの精神力の修行が足りなかったのだと後悔した。あの時のイタコ殿のように、なにも考えずに助けに向かうだけの精神力がなかったのだと悔やんだわけじゃ。だからこそ、あの時のお主はなにも悪くはなかったのじゃよ。
守るべき者を守る為の精神力が乏しかったワシの不覚じゃ。
分かるか? とどのつまり、あの場で真の意味での力が在ったのはイタコ殿だけ。
人は人を助ける時、自分自身に余裕があり、その範囲内で助けるのが正解だと考えるものもいる。ちょうど力に溺れ、力こそ正義だと考えたお主がそれじゃ。自身に力があれば、その力を使って、その力の範囲内で問題を解決するというわけじゃな。
ゆえに、お主は過大なる力を求めた。
力を得て、力の範囲も広げれば、あらゆる問題を解決できると考えたのじゃろう。
だがな。今回の件で分かったじゃろ?
いくら自身の力を鍛えようと一人では解決できない問題もある。いや、やつにも言われたな。一人の力では、なんの問題も解決できないのだとだ。まさにその通り。一人の力で解決したと思っている問題はな。一旦、引いて広い視点で見れば……、
実は、周りにいる沢山の人の助けがあってこそ初めて成されておるのだと分かる。
それこそがやつの言っていたピアが絶対に必要な理由じゃ。
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