#08 大河から海へ
そして、まさとし〔もしくはノリオ〕以外にも沢山の霊達が続々と集まってくる。
次から次へと天から降りて、地から湧き上がってくる。
水臭せぇ、馬鹿野郎と。
「そうか。イタコは今まで昨日の俺っちのように話し相手や悩み相談で沢山の霊を救ってきているんだった。そんな救われたやつらがピンチに駆けつけてきたのかッ!」
サラリーマンの霊も顔に輝きを取り戻してから、俺も行くぜと満面の笑みになる。
「無論、真田さんちの幸村の兄ちゃんも行くんだろう?」
イタコの口調を真似て軽く言い放つサラリーマンの霊。
「うむ。拙者が行かずに、どうしろと言うのでござるか」
と幸村の顔もほころぶ。
そうして天から地から数多くの霊達がイタコの体の中へと入ってゆく。
その数は二桁を超え、三桁にも届くイキオイだ。無論、これだけの数の霊がイタコの体へと憑依しているのだから指一本動かしただけでスタミナは絶対零度に届いてしまい死を迎える。それを分かっていたからこそ、イタコは敢えて脱力する。
憑依した霊達に自分の体を委ねて任せる。
エクソシズムを放つ黄金色に輝くイタコの身体が、ゆっくりと宙へと浮き始める。
晴夜は、チッと舌打つ。
「弱きもの達が寄り集まって、わたくしに対抗しようと、そういうわけですか。しかしながら無駄です。弱きものが、どれだけ集まろうとわたくしの前では無力です」
と己の力を信じて、決して余裕の表情を崩す事はない。
むしろ、集まるしか脳がないのかと、彼らをあざ笑う。
しかし、いつまでもとどまる事を知らない彼女に感謝する霊達は膨大な数になる。
百を超えた辺りで数えるのが馬鹿らしくなるほどに集まってくる。そうして小さな力は束ねられ、仏の力さえも超えるものになる。そこまでくると、さすがの晴夜も余裕な表情はしていられなくなり、段々と焦りが見え始める。また舌打つ。
「一体、どれだけ集まる気ですか。そんなにも感謝する霊がいるというのですか?」
遂には信じられないとばかりに驚きをも隠せなくなる。
同時に押し戻されつつあった彼女のエネルギー体が動きを止める。膨大な霊力を与えられてオレンジ色から黄金色へと変わる。三体の仏の力を得た晴夜のエネルギー体を徐々に押し戻し始める。その間も天から地から数多の霊達が彼女に憑依し続ける。
「まだくるのですかッ!」
ぎりと歯ぎしりを止められなくなる晴夜。
無論、個々の霊の霊力では、仏の霊力に遠く及ばない。
しかしながら小さな力も集めれば大きな力を凌駕する。
空から降った雨が集まり、大河を作り海へと成るよう。
例えば、四人の人間の手と一人の天才の手のどちらが力を持つのかと問われれば答えは四人の人間の手となる。なぜならば一人の天才の手は天才一人分の力しか発揮しないが、三人よれば文殊の知恵と言われるように四人の人間の手は……、
文殊という天才一人分の手の力とその他にも一人分の手の力を余分に持つからだ。
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