#06 激突ッ!
汗の玉は額から頬へと流れ落ちアゴへと伝う。
アゴから地面に堕ちる。
ぽたり。
サラリーマンの霊と真田幸村の霊も息をのむ。
「晴夜よ」
とイタコの口を借りて、静かに発する件の霊。
「愚か者めが。これより先はお主の信じる力で語り合おうと言ったはずだ。無駄口が多いぞ。怖いのか? ピアの大切さを知るイタコ殿に負けるのが怖いのか?」
「怖いのかですと? このわたくしが恐怖を感じてるよう見えるというのですか?」
精一杯、虚勢を張って、イタコを睨みつける。
ただし、
贔屓目に見ても恐怖に苛まているかに見える。
「世界の全てを掌握できる力を手に入れたわたくしに怖いものはありません。むしろ恐怖を感じているのは、そちらではありませんか? わたくしは畏れてなどいない」
愚か者。
……もはや、お主に語る言葉は、なにもない。
「畏れてなどいませんッ」
と晴夜が左手に集まっていた霊力と生命力を混ぜ合わした過大なる力を解き放つ。
「除霊術、エクソリズム」
遂に全力という殺意がイタコへと向かって放たれたのだ。
……うむ。イタコ殿、こちらもいきますぞッ。
オッケーよ。って言っても全部、あんたに任せてるけど。
えへっ。
「除霊術、エクソシズム」
イタコの左手に溜まっていた温かい霊力も、また晴夜へと向かって解き放たれる。
お互いがお互いへと一直線に向かう二対のエネルギー体。
一方は、オレンジ色の温かい霊力。片方は蒼くも冷たい殺意の塊。ちょうど二人が立つ中間地点で二対のエネルギー体が荒々しく激突する。激しい火花を散らす。互いが互いに敵対し合う相手のエネルギー体を消滅せしめんと、ぶつかり合う。
「力を貸しなさい。仏よ」
晴夜の顔に浮かぶ、三つの梵字が、鈍く淡い輝きを放つ。
不動明王、千手観音、馬頭観音の三体の力を無理矢理にも引き出し行使する晴夜。
イタコから放たれたエネルギー体が徐々に押され始める。
晴夜のソレの力が勝り、イタコのソレを押し返し始めたのだ。力の均衡が崩れると時を追う毎に加速度的に押し返されるイタコや語らなかった霊の力。地蔵菩薩も、あらんばかりの霊力をイタコに貸し与えるが、三体の仏の力には遠く及ばない。
こ、これってヤバかも?
イタコの眉尻が下がる。
それでも笑みを崩さずに、なにも語らない霊。
「アハハ。やはり無理だったんですよ。所詮、仏一体と悪霊の霊力。しかもエクソシズムでしかない。このまま押し切らせて頂きます。安らかに眠りなさいッ!?」
と晴夜が高笑う。嗤う。
そこでイタコの頭で燦然とその存在感を放っていたコスモスの花飾りが輝き出す。
……私も、いるわッ!?
とッ!!
そして、
このあと全てに決着が着く。イタコと晴夜の喧嘩が幕を閉じるのだ。晴夜という青年の過ちが看過され、そして皆が幸せになる結末が待っている。ハッピーエンドと言ってしまえばチープだが、皆が望む未来がだ。その時まで、あと少し。あと少し。
もうしばらく、となる。
今しばらく少しだけのお付き合いを願いたい。
必ずや、期待には応えるゆえ。それがイタコなのだから。
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