#05 下位互換
だって、そうですよね?
あなたはピアの本当の意味を知っている。だからこそ困っている者を助ける為に無条件で体を張る。今回もワシの願いを聞き届け、最後の最後までワシを信じてくれていた。それだけの事実で充分ではありませんか。だからワシも……、なのです。
ワシもワシの為、そして、あなたの勝利の為に自分の力を使う事ができるのです。
黙して語らなかった霊が無事に憑依を完了する。オレンジ色のオーラが彼女の体から溢れ出す。とても温かいオーラでイタコ自身の傷も癒えたよう痛みから解放される。ただし傷が治ったわけではなく、飽くまで痛みが和らいだだけだ。
それでも痛みが引いた彼女は左手で右肩を持ち肩を回す。
「よっしっ。絶好調ッ!」
すぐに調子に乗るイタコらしい発言までが飛び出す始末。
そんなイタコを見てから厳かに彼女をたしなめる件の霊。
「いえ、単に痛みを和らげただけです。ダメージまでは補いきれておりません。ゆえに、あまり無茶な動きは慎んでくだされ。ともかく、いきますぞ、イタコ殿ッ!?」
……待て。その前にだ。
我は、どうすればいい?
いまだ憑依したままの地蔵菩薩がイタコと件の霊に問う。
確かに地蔵菩薩を憑依させたまま件の語らぬ霊を憑依させたのだから、二体同時に体の中に存在している状態となる。つまり、スタミナの消費量は地蔵菩薩単体の時よりも激しいものになる。そういった状況に陥らぬよう問いかけたわけだ。
「大丈夫ですよ。くどいようですが、エクソシズム自体、激しい動きを必要とはしません。ゆえに、このまま地蔵菩薩殿もエクソシズムに霊力を加算して頂きたい」
……うむむ。そ、そうか。心得たぞ。
いまいち件の霊が考える勝機を理解していない地蔵菩薩は訝しみつつも同意する。
そして、
オレンジ色のイタコは左手を突き出して、右腕を肩の高さと同じに右肘を曲げる。
のち、固く右拳を握る。
右拳から溢れるオレンジの光。語らぬ霊と地蔵菩薩の霊力が右拳へと集まる。右拳から溢れた力は先の尖った細い線となり、拡げ立てた左手のひらへと向かう。まるで弓を引くような所作で左手のひらに纏った熱くも温かい霊力を引き絞る。
一方、まるで鏡写しのよう、晴夜もまた己の生命力と霊力の全てを左手へと纏う。
「本気ですか? 本気でエクソリズムに対してエクソシズムで対抗するというのですか? わたくしには三体の仏が憑いているのですよ。本当に本気なのですか?」
イタコに憑いた霊は彼女の体を借り、なにも答えず笑う。
もはや、なにも語る事などないとばかりにだ。
「クッ。わたくしを馬鹿にしているのですか?」
件の語らない霊が一体なにを考えているのか分からなくなり、焦りを見せる晴夜。
コピーしたコールドリーディングを使おうとも、なにを狙っているのか、まったく分からなかったのだ。この場の全てを掌握してきっていたと考えていた晴夜は、分からないという不安に苛まれる。漠然とした不安という恐怖に心が侵され始める。
「なにを考えているのかは知りませんが、無駄ですよ。無駄だ。わたくしは是威お祖父様ですら超えているのです。加えて仏の三体がわたくしには憑いているのです」
と額に冷や汗の玉を浮かべた晴夜がのたまう。
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