#04 カウントダウン
…――イタコ殿、お願いがあります。
黙して語らなかった霊が、視線を静かにイタコへと移す。
「なんだわさ。あたしの顔に、なんか付いている? 地蔵菩薩は憑いてるけどもさ」
スタミナ切れではあるが、きっかり無駄口は叩くイタコ。
語らず目を閉じる霊。目を閉じた後、ようやく言葉が解禁されたとばかりに彼女へと声をかける。その声は、どこかで聞いた事があるもので、どこで聞いたんだろうと思いを巡らせるイタコ。しかしながら、いくら考えても思い出せない。
……ううん? 喉の辺りまでは出かかってるんだけどもさ、一体、誰だったかな?
もう、喉に引っかかった骨っぽいわ。
まあ、余計な思考で脳みそを使うとスタミナ切れで死ぬから、もう考えるの止め。
「ともかく馬鹿者の目を覚まさせるのが先決です。その為にイタコ殿の体をお貸し願いたい。無論、もはやスタミナがないのは承知の上でのお願いとなりますゆえ」
どうやら件の語らなかった霊は自分を口寄せして欲しいのだと言っているようだ。
「まあ、いいけど。本当にスタミナがミリも残ってないよ」
イタコはあざと血に汚れた体を庇いながら霊へと答える。
「その点に関しては問題はありませぬ。格闘で張り合うつもりはありません。むしろ真正面から、やつのエクソリズムをエクソシズムで迎え撃つだけですので」
つまり、こういう事だ。
エクソシズムという技は行使するものの霊力とスタミナを混ぜ合わせて放つ技なのだが、スタミナがない分、霊力のみで対抗するというわけだ。無論、エクソシズムの動きは基本的に静的であり、激しい運動を必要としない。ゆえに……、
スタミナが尽きてしまったイタコでも、エクソシズムを行使できるというわけだ。
ただし。
眼前で敵対する晴夜はエクソリズムを放つつもりでいる。
そして、
黙して語らなった霊は、エクソシズムで対抗するという。
つまり、エクソシズムとはエクソリズムの下位互換技であり、威力もエクソリズムには遠く及ばない。加えて、イタコのスタミナは皆無であるから霊力で全てを賄う。ゆえに威力において余計に勝る事が難しい。それでも勝利を確信する件の霊。
加えて、
イタコも勝機がある事を十全に理解していたが為に、敢えて語らず、静かに頷く。
「まあ、勝てるなら、なんでもいいわさ。じゃ、カモンッ」
力を抜いて、脱力する。
そうしてから黙して語らなかった霊が上空へと高く舞い上がり、くるりと一回転。
そののち地上に立っているイタコに向けて、急降下する。
「三珠流降霊術、口寄せ……、って、そういえばあんたの名前聞いてなかったわさ」
と言ったイタコの体の中に半ば強制的に憑依する件の霊。
イタコの銀髪がオレンジ色に発光して、緑色の瞳が大きく見開かれる。そののち頭の裏でまとめている三編みが激しく飛び上がる。左目の下にあった梵字も黒いから薄い茶色へと色を変える。口の端から可愛い八重歯が、ちろっと顔を出す。
無理やりにも、憑依されたわさッ!?
誰かも知らない御仁に侵されたわさ。
WAO。
フフフ。誰でもいいではないですか。
誰でも。
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