#03 語り始める霊
イタコは晴夜を力強く決然と睨みつけて見据える。
対して彼は嗤う。
「クククッ。弱きもの達が、寄り集まって会合ですか? 新たに現れた霊は、そこそこの力を感じますが、所詮、神霊ではない悪霊。束ねた所で、たかが知れています」
ただし、なんとなく、不穏な空気を感じます。であるならば。
些細な不安も解消しておきましょう。これでダメ押しですよ。
オン、アミリトドバン、ウン、パッタ、ソワカッ。
と再び新たな真言を口にする晴夜。
カンと読む梵字が額に浮かび上がる。不動明王が武の明王であるならば観音の中で武を極めし観音こそ馬頭観音となる。不動明王と同等、或いは馬頭観音の方が力は強いとさえ言われる観音である。加えて遂に晴夜は三体同時に口寄せした事になる。
穏やかだった晴夜の顔つきも馬頭観音のよう憤怒に満ち満ちたソレへと変貌する。
髪も燃え盛って、にわかに逆立つ。
……よもや、馬頭観音まで口寄せするとはな。本当に大丈夫なのか? イタコよ。
地蔵菩薩が心配そうに語りかける。
……ハア、ハア、ハア、正直、辛い。けど大丈夫よん。あたしの読みが正しければ晴夜が全力で、あたしを殲滅しにきた時にこそ、あの霊が動く。晴夜が全力じゃないと意味がないからこそ、あの余裕な顔が崩れた時に、あの霊は動き出すだわさ。
そして、今、やっととっておきの三体同時な仏を口寄せした。
だったら動く。あの霊は絶対に動きだすんだわさ。
そして、にわかに空気が重くなる。
「……馬鹿者がッ」
イタコが予想した通りに、遂に、ずっと黙して語らなかった、あの霊が口を開く。
「晴夜よ。お主は力を履き違えておる。我らメル派の教義を忘れたか? 愚か者め」
声は、荘厳で威厳に満ちたもので大気を震わせる。
晴夜の中に、畏れが生まれいずる。
微かに震える、冷たくも蒼き両拳。
「お、お祖父様……、なのですか?」
余裕が崩れてきて、焦りが浮かぶ。
「お祖父様か。まあ、よい。それよりもメル派の教義を忘れたのかと聞いたのだが」
声は静かに言う。
「教義ですか? 忘れてはおりませんよ。しかし、今、それを云々語る事は止めておきましょう。それよりも分かったのです。あなたは、お祖父様ではないと……」
「そうか。ワシは是威ではないと申すか。では誰だというのだ」
落ち着き答える。
「それは分かりません。しかしながら分かるのです。その霊気はお祖父様のソレではない。であるならば神霊や精霊でないあなたはお祖父様の名を謀る悪霊であると」
勝ち誇ったよう、やや落ち着きを取り戻した晴夜が吐き出す。
お祖父様でないならば殲滅も厭わないとばかりに、吐露する。
「愚か者めが。よかろう。ではかかってこい。ただしお主の全力でないと散るぞ?」
「クククッ。散るとは片腹痛い。このわたくしが負けるとでもいいたいのですか。仮にお祖父様であったとしても、わたくしは、すでにお祖父様を超えております」
笑いさえ生まれるほどに落ち着きを取り戻す晴夜。
「それこそが奢りだ。あれほど力に溺れるなと教えた事すらも忘れたか。もうよい。ここからは先は、無駄口ではなく、お主の信じる力で語り合おうぞ。よいな?」
と霊は怒りさえ湧かずに呆れ果てたと吐き捨てる。
「いいでしょう。お祖父様を語る悪霊などに全力を使うのは癪ですが、全力を以てあなたを消し去りましょう。もちろんイタコさんも一緒にね。では、いきますよ」
と晴夜が、自身が攻撃での最大火力となるエクソリズムへと体勢を変えていった。
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