Episode04 最悪から始まるフィナーレ
#01 ロスト
…――クククッ。
死になさい。死になさい。まぐれでもわたくしを追い詰めたあなたに慈悲は無用。
この上なく悲惨で哀れなる死をプレゼントして差し上げます。
為す術のないイタコは為されるがままに彼の拳の餌食になる。
顔面に着弾した晴夜の拳はイタコの整った顔を、ひしゃげる。
蒼き拳によって、ふっ飛ばされる。
二体の仏の力を強制的にでも手に入れた彼の戦闘力は凄まじいものになっていた。
走れば周りの岩を巻き上げ、飛べば地上からは姿が確認できないまでに上空へと舞い上がる。無論、拳は、大気を切り裂き、巻き上げた岩をも砕く。加えて、イタコの攻撃手段の中でも最大火力を持つ黄泉の送り火すらも体現できるのだ。
彼女には打つ手が残されていない。
もはや。
そう思えてしまって、仕方がない。
サラリーマンの霊も加勢するが、逆に浄化されそうになり半分消えかかっている。
「ちくしょう。どうすればいいんだよ。始めから、こんな化け物に勝負を挑んだのが間違いだったのか。地蔵菩薩さえも沈黙しちまった。一体どうすればいいんだッ!」
ある意味、部外者のサラリーマンの霊が自分の事のように地団駄を踏み悔しがる。
泣き言しか言えない自分が不甲斐ないと悔し涙さえ浮かべる。
……ハア、ハア。
イタコがボロボロになった右腕を庇うように左手で抑えて、よろりと立ち上がる。
スタミナ切れの時以上に息があがってしまい膝も笑っている。
……イタコよ。もう立つな。諦めて降参せよ。勝ち目はない。
彼女の残念な胸の中で、いまだに燃える心にいる地蔵菩薩も、遂に降参を勧める。
答えない。いや、応えるべきではないと彼女の顔が上を向く。無理って諦めちゃうには、まだ早いわさ。なにか対抗できる術があるはず。もちろん為されるがままにふっ飛ばされたのは、必死で最悪を打開策する手を考えていたからだわさ。
必死で考えるイタコに向かって、晴夜が嗤い突っ込んでくる。
「アハハ。下手の考え休むに似たりですよ。いや、休憩を入れる事すら許しません」
ボロボロになっても仁王立ちなイタコの眼前で急ブレーキをかけて顔を近づける。
顔つきは邪悪なものであり、己を追い詰めたものを叩きのめすと言わぬがばかり。
力なきものは、ひれ伏しなさい。力こそが正義なのですから。
「死になさいッ!」
と言うと顔を後方へと反らしてから彼女のアゴを蹴り上げる。
アゴに強烈な一撃をもらい、首がこれ以上にないほどに伸び切り、その後、蹴り上げられた顔を追いかけるように体が宙に浮く。がら空きになった腹部に晴夜版の三珠流体術、黄泉の送り火が襲いかかる。しかも左右両方の蒼く冷たい連弾。
着弾した瞬間、イタコの体がくの字に曲がり苦を与えられる。
痛みで目を閉じた彼女の口の中から真っ赤な鮮血が飛び散る。
「クソが!! こいつには容赦って言葉はないのかよ。仮にもイタコは女の子だぜ。力さえあれば力なき者になにをしてもいいって言うのかよ。このクズがッ!!」
半分浄化され動けなくなったサラリーマンの霊が無駄とも思える罵声を浴びせる。
それにしても、ここまでイタコが痛めつけられてピンチになろうとも黙して語らなかった霊は口を開こうとしない。いや、開こうとしないどころか助けに駆けつける素振りすら見せない。目的は一体なんのか。それすらも曖昧模糊になってくる。
しかし、心なしか、我慢しているという顔つきになっている。
額に浮かぶ汗が、それを証明する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます