#08 ポルターガイスト
朝までファンタグレープとお酒で語り合ったサラリーマンの霊だ。
「大丈夫だ。いくら読み切られていても、お前の右ストレートは世界を獲れるッ!」
自分を信じて、振り抜けッ!!
掴む手が緩みサラリーマンの霊は自由になる。
「無駄です。わたくしには利かない。なぜならば、詰めで放とうとした黄泉の送り火を、この目で見たわたくしも黄泉の送り火を撃てますから。相殺させますッ!」
と言うが早いか、彼の拳が青く煌めき始める。
しかも右左同時に、両拳がまばゆい光を放つ。
「一つと二つ、どちらが強いか、試しますか?」
と、晴夜がのたまった瞬間ッ!
「グッ!」
と呻いてから両拳に集まった光りが霧散する。
「なんです。まだ、なにか奥の手があったのですか? そんなはずはない。馬鹿な」
完全に読み切っていただけに不意に訪れた不確定要素に驚き戸惑ってしまう晴夜。
うつ伏せで頭だけをイタコの方へと向けて意識を集中していたが為、下からの不意打ちに無防備になっていたのだ。その下からは、あの弾き飛ばされたと思われた風車が飛んできていた。無論、重力などの物理法則を無視しての一撃を加えた。
「少しは役に立ったか? 本当はコレを刺して動きを止める予定だったんだろう?」
自由になったサラリーマンの霊が風車に憑依し攻撃を加えたのだ。
いわゆるポルターガイストと言われる現象。なにもない場所で誰もいないのに物が勝手に動くというアレだ。風車にはイタコ印のケミカルFXが塗られている。彼女曰くアフリカゾウですら、ひと刺しで二時間は痺れさせ動けなくするという一品。
死にはしないが、まさにスズメバチの一撃ッ!
晴夜の腹部でカラカラと笑いながら回る風車。
「振り抜けッ! イタコッ!!」
サラリーマンの霊が絶叫する。
イタコの赤い瞳がうると潤む。
「ありがとん。うん。改めて、いくわさッ!?」
再び、紅く燃ゆる拳を固める。
一気に撃ち抜き赤きパトスが晴夜を捉え迸る。
うつ伏せで、なにもできないでいる晴夜へと大陸間弾道ミサイルが着弾したのだ。
「三珠流体術イン地蔵菩薩ッ! 黄泉の送り火」
爆裂する赤き焔。
核弾頭が炸裂したほどの衝撃に晒される晴夜。
着弾したソレは、はち切れんばかりの衝撃を加算してから上空に向かっていた晴夜の体を地面へと無理やり方向転換させる。高く舞い上がったがゆえに重力も乗算されて固い地面へと突き落とされる晴夜。そのスピードは音速をも超えるかのよう。
「馬鹿な。馬鹿な。馬鹿なッ!」
冷静さが崩れて言葉少なくも信じられないと繰り返す事しかできないでいる晴夜。
そののち、大きな土埃が舞って、恐山の岩場へと叩きつけられる。
がっこんッと地が吠えるッ!!
まさに天地開闢級のダメージに襲われる晴夜。
やっと終わった。
そう思うイタコ。
サラリーマンの霊が風車から飛び出してきてイタコの周りを嬉しそうに飛び回る。
やったなッ、と。
彼女は、右足から地面にふわりと着地し、左足も地面を踏みしめる。赤い三編みが落ち着きを取り戻し、ゆっくりと銀髪に戻ってゆく。左目の下にある梵字も輝きを失う。なんとかだけどギリギリで倒せたわさ、と土埃が晴れるのを佇みながら待つ。
……うむ。よくやったぞ、イタコのちんちくりんよ。お主にしては、上出来だな。
と地蔵菩薩も心を落ち着ける。
ふうと大きく息を吐くイタコ。
まあ、これでスタミナゼロだわさ。限界ッス。
息も荒く右腕で額の汗を拭う。
ゆっくりと土埃が晴れてくる。
彼女は、無言で語らない霊を見つめる。この後に及んでも、彼女を助けるわけでもなく、それどころか、いまだに口を結んだままの語らない霊。まだダメかと、ため息を吐いてから、晴れた土埃の中で倒れているであろう晴夜に視線を移し、探す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます