#07 黄泉の送り火
…――オン、カカカ、ビサンマエイ、ソワカ。
空爆に晒されたイタコの口から漏れる真言。その呼びかけに呼応するように左目の下にあるカと読む梵字が、再び、鈍く輝く。途端、彼女は、あの三つの霊気リングが発していた色と同じく赤く温かい光に包まれる。そうして銀髪も紅く染まる。
大きな三編みがユラユラと上空に向けて立ち登り深い緑色をした瞳も赤く染まる。
風車が弾き飛ばされたのは計算外だったけども、実は、ここからが本番だわさッ!
ゆくぞ、イタコ。
心の中にいる地蔵菩薩が彼女の心に向け叫ぶ。
了解だわさッ!?
後方に飛び退き、ちょうどクラウチングスタートの格好になったイタコは、よーい、どんッ!! とばかりに走り出し、回転しつつ、さざなみの揺り籠の体勢に戻った晴夜との距離を一気に詰める。加速する。一秒ごとに赤い炎が激しく燃え盛る。
そうして晴夜の足が、駆けながら前方に突き出していた彼女の右腕とぶつかるッ!
火花散る。いや、火花が散ったように見える。
そして、殺意の篭もった力を受け流し、前方に滑り込む。同時に、巴投げのよう晴夜を引き寄せる。色気のないお尻に浮き上がる三つの赤い霊気リング。また爆ぜる。上空に向けての力を下半身に加えられてシーソーの要領で上半身が更に沈み込む。
そののち上半身が前へ前へと滑り、より深くイタコに引き寄せられてしまう晴夜。
「なにをするつも」
過負荷に晒されて、最後まで言葉を紡げない。
「三珠流体術イン地蔵菩薩ッ!」
赤き瞳が、これで決めるとばかり、より強く輝き、彼を引き寄せる手に力が篭る。
全てを燃やし尽くしてでも、絶対に倒すッ!!
前方上空へと向けて上がり続けた足の裏を晴夜の腹へと充てて彼の体重を支える。
そして、
腹に充てた足の裏に現れる六つの霊気リング。敢えて二倍の力を使い、ぐぐっと霊気リングを縮ませる。霊気リングに加えられた力は逃げ場を失い、限界まで引き絞られると一気に逆方向に爆ぜる。爆ぜ、爆発が起こったよう晴夜の腹を吹き飛ばす。
「必殺ッ、友への三つ巴ッ!!」
叫ぶイタコッ!?
腹部に過大なる衝撃を受けた晴夜は、うつ伏せのままで高く高く放り投げられる。
なるほど。で、このあと……。
倒れていたイタコは素早く立ち上がり、両膝を曲げてグッと、かがみ込む。両足の裏には例によって三つの霊気リング。霊気リングが爆ぜるのと同時に一気に上空に飛び上がる。そして脱力したまま飛び上がっている晴夜と追いつく。追い抜く。
追い抜いた所で体をねじって半回転させてから拳に赤い炎を纏う。
ダメ押しだわさ。
三珠流の、いや、あたし自身の最大奥義で晴夜をぶっ飛ばすッ!!
「三珠流体術イン地蔵菩薩ッ!」
「ククク。もしかして、ここで黄泉の送り火を放つつもりですか?」
イタコの赤い目が見開かれる。
驚き、赤き拳の動きが止まる。
なんで、それを。
握った拳に嫌な汗が浮き出す。
ぐったりとした晴夜の顔が厭らしく歪む。いや、彼は、敢えて、ぐったりしていたのだ。ダメ押しの黄泉の送り火を放たせる為。つまり、ここまでの一連の流れは彼がコピーしたコールドリーディングによって、すでに読み切られていたわけだ。
「あなたの攻撃手段で最大火力を持つものは黄泉の送り火ですよね? 確かに、わたくしはソレを一度も見た事はありません。ただね。……こいつが吐いたんですよ」
晴夜はあざ笑う。
右手に握りしめている消えかかった霊が呻く。
霊が、無い力を振り絞り、つばを吐きつける。
一瞬、時が凍りつく。晴夜が顔をしかめるッ。
「わりぃ。助けようと思ったんだけどドジっちまった。でもな。お前の右ストレートを喰らった俺は分かるんだ。黄泉の送り火だったら、こいつを沈められるってな」
……あの語らない霊ではない。
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