#04 急降下爆撃

 イタコが右足を軸に晴夜に飛びかかる。


 今の彼女は、いつもの十倍増しでの跳躍を魅せ、晴夜に落ちる彼女の影は小さい。


 地蔵菩薩の加護を受けて足元にはスプリングのように三つ重なった紅いリング状の霊気がある。そのリングを使い反重力にも似た力でジャンプ力を加算したのだ。高く跳躍した彼女は左足を前方に放り出し、踵落としで一気に急降下爆撃を敢行する。


 その姿は、さながら日本海軍の名機と名高い急降下爆撃機である晴嵐にも見える。


 紅くまばゆく燃ゆる重爆撃が彼を襲う。


 トラトラトラ。我、奇襲に成功せりッ。


「三珠流体術、さざなみの揺り籠ッ!?」


 晴夜は笑う。微動だにせず嗤い続ける。


「ふん。無駄ですよ」


 悪霊であるニータンの手を吹き飛ばした、さざなみの揺り籠。そんな絶大なる力を以てしても一笑に付せる晴夜という青年。襲いかかる踵に視線を移して大口を開け、喝ッ!! と叫ぶ。対して吐き出された覇気によりバランスを崩すイタコ。


 バランスが崩れ、重心が右にずれ、少々、斜傾した彼女を右腕で払いのける晴夜。


 払いのけられた彼女は中空で華麗なバク宙を魅せて体勢を整える。


 晴夜の右腕を力点にして、バク宙を敢行したわけだ。


 体勢を整えたあと、また足元にリング状の霊気を発生させてから蹴る。そののちバク転。着地の手元に再びリング状の霊気を作り、再びバク転。その繰り返しで中空での四、五回のバク転により、晴夜との距離をとる。距離をとりつつ息を整える。


 ハア、ハア、ハア。


 正直、きついわさ。


 距離をとったあとバク転を終えた右足で地面へと無事に着地する。


 体の線が細い彼女。


 いくら地蔵菩薩の加護を得て身体能力が向上しているといえど基となるスタミナや筋力は彼女のものであるから限界がある。いや、むしろ限界以上の運動能力を得ているからこそスタミナを激しく消耗させる。つまり持久戦に持ち込まれれば負ける。


 一気に決めねば彼女の方が先に潰れる。


 イタコの眉尻が、微かに揺れて上がる。


 左目の下の梵字が鈍く光り心配を顕にする地蔵菩薩のガキんちょ。


 …――大丈夫か? かなり辛そうだが?


 フフフ、正直きついわさ。でも大丈夫。


「やはり口寄せですね。しかも神霊にも似た力を感じます。さしずめ仏と呼ばれる存在を憑依させたのでしょうか。いいでしょう。もう少し観察させてもらいます」


 と晴夜もバックステップで距離をとる。


 距離の開いた二人はどちらも相手の出方をうかがって様子を見る。場が膠着する。


「どうしたのさ。どんどん来ないわけ?」


 下手な挑発など利かないとは分かっていても場が膠着してしまう事を嫌うイタコ。


 とにかく一刻も早くヘコませないとイタコ自身がもたない。思ったよりも地蔵菩薩の力が強かったからこそリスクもそれに伴っているからだ。ゆえに早期決着を目指している。そんな思惑を見透かしたように声を殺して笑う晴夜。嘲笑う。嗤う。


「フフフ。口寄せを観察したいのもありますが、あなた自身、憑依状態は、きついのでしょ? だったら敢えて持久戦を選ばせてもらいます。ゆっくりといきましょう」


 チッっ。


 きっちりバレてる。

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