#05 金的

 イタコは舌打ちをしたあと風車を見る。


 あの胸の谷間で、まわり続ける風車だ。


 とっておきだけども、しゃーないわさ。


「まあ、あんたから来ないんだったら、こっちからいくわさ。次の攻撃で一気に決めるよん。燃え尽きるまでヒートな全力だわさ。いくよ。晴夜、覚悟しなッ!?」


 頼むよ、地蔵菩薩のガキんちょ。もう、あんただけが頼りだわさ。


 ……うむ。ガキんちょ呼ばわりは幾ばくかしゃくに障るが心得た。


 開いた距離を一気に詰めるようイタコは前傾姿勢でイノシシのよう突っ込む。そうして助走を付けたあとにサッカーで言うスライディングを試みる。彼女の背にまた赤い霊気のリングが三つ現れる。助走と反重力で加速する滑り込み足払いだ。


 もくもくと土煙を上げ晴夜の足を狙う。


「苦し紛れに過ぎませんね。つまらない」


 晴夜は一切表情を動かさずにジャンプする事で彼女の攻撃を躱す。


 躱したと思われた瞬間、イタコは右手のひらを使い地面をはたく。


 はたいた手のひらの下にも赤い霊気のリングが三つ。リングは、まるで圧し潰したスプリングが爆ぜるよう彼女の体を上空へと押し上げる。ジャンプで躱した晴夜への追撃。そうしてスライディングの姿勢で前へと伸ばしていた右足を上へと向ける。


 右足が晴夜を襲う。


 しかも狙いは股間。


 どこにも弱点がない晴夜とて男であるから金的はすべからくも弱点だと思われる。


 むしろ金的ですら鍛え上げて弱点でないとするならば、もう手の打ちようがない。無論、女子であるイタコには、いまいち不明瞭だが、それでも金的など鍛える事のできない箇所だと考えていた。だからこそ敢えて金的へと目標を定めたわけだ。


「男の秘境を狙うなんて卑怯? アハハ。喧嘩上等なイタコちゃんには、なんにも聞こえませぬわ。喧嘩にルールなんてないッ! これはスポーツじゃないんだわさ」


 と、あざ嗤うイタコを見つめて晴夜は冷ややかな笑みを浮かべる。


 実に下らないとッ。


「構いませんよ。どんな手を使ってもね」


 むしろ、全力とは、どんなに汚い手段でも厭わないものだと心得ておりますから。


 金的を狙う足の指がサンダルの中でわにわにと蠢く。


 獲物はすぐそこだと、怪しくも嘲笑う。


 ワハハ。死ねぇッ。


 しかし、すんでの所で晴夜が、一応だが、女子の蠢く触手〔※足の裏〕を両手で抑える。そして鞍馬での跳躍よう足の裏をはたき、更に高く飛び上がる。そのまま上空で、敢えて、魅せるようバク宙をした後、右足を踵落としの体勢にもってゆく。


「フフフ。三珠体術、さざなみの揺り籠でしたよね?」


 またコピーだッ!?


 しかも流麗にイタコの重爆撃を再現してみせる晴夜。


 もちろん彼が纏うものは赤く熱いそれではなく、青くも醒めきった冷たきオーラ。


 氷雪の塊だと表現しても構わないほどの冷たい狂気。


 上へと飛び出していたイタコは慌てて、中空に突き出した右足の裏へと、また三つのリングを出現させてブレーキをかける。ブレーキをかけるのと同時にリングを蹴って、反転する。地面へと向かう。その間にも晴夜の重爆撃が上空から彼女を襲う。

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