#03 過程と結果
その頃、晴夜は追っている霊の霊気を感知し彼女らを追い詰めようと考えていた。
心の中は闇に染まっている。
是威という尊敬する祖父を己が弱さの為に失ってしまい、弱さが持つ側面である無力に支配されてしまっていたのだ。ゆえに晴夜は弱さを叩き出す為に自分を果てしなく鍛え上げた。元来、天才気質であった事も幸いして、のみ込みは早かった。
乾いた砂の上に水をまいて、まいた水が砂に染み込むように様々な力を吸収した。
その過程で、学び覚えるという一点も研ぎ澄まされた。
大概の技は、一回、見ればコピーできるまでになった。
そして、知識や知恵についても、一度、聞けば理解して自分のものとできた。加えて覚えた技や知識、知恵などの応用すらも誰にも教えられる事なくやってのけるまでになる。まさに天才なのだとしか表現できないのが宇津晴夜という人間であった。
しかし、
天才だからこそ強くなりすぎてしまったからこそ、その果てで他者を蔑ろにした。
この世は勝てば官軍。弱き者に生きる価値などない。ゆえに弱き者こそ強くなるべきであり、強くなりさえすれば自分の正義を押し通せるのだと。いや、押し通すというよりは強き者の正義こそ真理なのだとだ。力こそ正義とは、そういう意味だ。
そう強く固く信じるようになったのだ。
是威が危惧した力に溺れる者、それこそ今の彼である。
「さてと」
と晴夜が恐山で調子に乗るイタコの元へとたどり着く。
「弱き者に、己の無力さを理解してもらいましょう。そうして無力さを悟った時、強くなければ、なにも守れない、正義すらも侵されるのだと痛感して頂きましょうか」
とつぶやき、イタコの目の前へと出た。
「よし。来い。もう恐いものはないわさ」
彼らの中心に居座る、決して語らない霊も固唾をのむ。
「しょっぱいおっぱがいっぱいで、すっぱいんだわさッ」
これから熾烈なる戦いが始まる。その戦いは、お互いの正義がぶつかるもの。力こそ正義と言って憚らない晴夜はイタコの正義を強く否定する。無論、ピアという正義を持つイタコは晴夜の思いのすべからくを砕くだろう。これは定められた運命だ。
しかしながら、その定められた運命すらも捻じ曲げるだけの力が、晴夜には在る。
もし仮に運命が捻じ曲げられイタコが負けるような事があったとしても、それもまた一つの結果であろう。結果には過程があり、そののち結果が生まれるもの。ゆえに晴夜という圧倒的な力を持つものに過程が上塗りされれば結果もまた変わるのだ。
だからこそ願うべきなのだ。
イタコが天真爛漫に馬鹿笑いし晴夜が照れ笑う結果を。
それこそピアというお話の行き着くべき、みんなが笑える唯一の未来なのだから。
「おや、左目の下の梵字は?」
「梵字を知ってるの? でも、なんであるかなんて知らなくていい事だわさ。そんな事より、見下していたら痛い目みるわよ。男子三日会わざれば刮目して見よってね」
いや、多く見積もっても三十分前後でしょう。それどころか男子じゃないですし。
などと思った晴夜を放っておきイタコが右口角を上げて、ぎゅっと右拳を握った。
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