Episode03 イタコvs晴夜

#01 神に近しきもの

 …――よし、晴夜が来るまでに仕掛けを施さなくちゃ。


 と、木のウロから薬瓶を取り出すイタコ。


 ラベルはない。代わりにマジックを使い、下手くそな字でイタコ印のケミカルFXと書いてある。怪しさ満点なソレ。そののちウロの更に奥の方をまさぐる。名古屋銘菓、なごやんという饅頭を取り出す。今から口寄せするやつの大好物こそが……、


 この、なごやんなわけだ。


 どうやらイタコ自身が備えてあったものらしい。無論、対晴夜戦に向けて準備していたものではない。彼女は、その性格上、どうしても敵が多い。その為の備えだと考えられる。つまりピンチになった時に敵を恐山に誘い込み、殲滅する為の物資。


 そのブツを今こそ晴夜に使うべきだとそういうわけだ。


 取り出した薬の蓋を開けてから人差し指を使って風車の支え棒の先へと塗り込む。


 そして青いチューブトップの服で隠している胸の谷間に風車を刺す。


 当然、谷間はないと言ってはいけない。


 いや、いけないどころか逝ってしまう。


「シャラップ。逝きたいの? って誰に言ってるんだわさ。あたしの頭も逝った?」


 兎に角。


 謎の薬、ケミカルFXを仕込んだ風車がイタコのない胸の谷間でくるくると回る。


 そうして、再び菩提寺へと視線を移す。


「もうあんたに頼るしかない。頼むわさ」


 額に浮かんだ汗を右腕で拭い、微笑む。


 なごやんを眼前の岩の上にそっと置く。


 そして、


 静かに霊気を高め合掌したあと心中で菩提寺にいるであろうやつへと話しかける。


 心を落ち着け静かに淡々と言葉を紡ぐ。


 どもどもだわさ。おひさ。元気してた?


 あたしは相変わらず元気印でごじゃる。


 そそ。あんたを口寄せしようと思ったんだけど、あんたは気が難しいからね。あたしから出向かないとへそを曲げるからさ。ここまで来たわさ。もちろん供物も用意した。なごやん、好きだったよね? だから頼むわさ、あたしに力を貸してッ!


 心を落ち着けた割には、近所の兄ちゃんに話しかけるノリでやつに言葉を投げる。


 うむっ。久しぶりだな。三珠イタコよ。


 岩の上に置いたなごやんが、碧く光だして、中空へと浮かび上がる。


 そして、


 饅頭を包む包装紙が赤い炎に包まれて消え去る。剥き出しになった饅頭が右端から見えないなにものかによって食される。右端の次は左端をかじり、最後は一気に丸呑みしたかのよう、饅頭が、この世からロストされる。何もない空間に喰われる。


 ゲプッという音のゲップが耳へと届く。


「よかろう。願いを聞いてやろう。口寄せするがよい。力を貸してやる。ただし心せよ。我の力は神に近しき力。怒りに任せて行使するな。この世が亡くなるがゆえ」


 よいな?


「了解ッ。じゃ、イタコちゃんの豊満な胸に飛び込んでおいでだわさ」

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