#12 恐山

 アハハ。


 という晴夜の笑いを背後にして走るイタコ。駆ける。一生懸命に。どこまでもだ。


 そして、


 彼の怖さの正体が何なのか、と考える。


 エクソシズムの上位互換技であるエクソリズムこそが隠し玉と思える。彼の祖父はエクソリズムで命を落とした。であるならば単なるエクソリズムで終わってしまえば晴夜自身の命も脅かされる可能性が在る。では死なないで放つ事ができるのか?


 彼は若い。是威とは違う。であるならば、やはり死なずに放てる可能性は大きい。


 そう思えるが、力を求めて欲していた晴夜の行き着く答えが、


 そんな単純な答えであろうはずがない。


 では、なんなのか? その正体は……。


 ……それが分かれば苦労しないわさッ。


 と一人でキレて、左手をわにわにする。


 霊の尻尾を、しっかりと握り、恐山を目指す彼女には、どうしても分からない。どうしても納得できる解が出てこない。そして思い立つ。今、一緒に逃げている霊がなにかを知っているかもしれないと、そう考えたわけだ。息を切らせて問う。


「あんたさ。なにか知ってるんじゃない」


 田園地帯を抜けて登山道入り口に着く。


「晴夜にも纏わり付いたって聞いたけど、あいつの事、知ってるのかに? あいつとは、どんな関係だったのさ。もしかして、あんたが宇津是威って事はないよね?」


 登山道の入り口に立つコの字を左に回したような鉄製の枠を軽やかに飛び越える。


 左手で、枠の上部を叩いて舞うように。


 問われた霊は、相変わらず無言のまま。


 じっと。


 右手の固結びを解いて両手で霊の顔を力いっぱい、わし掴む。


「この後に及んでも、なにも語りませんってか。あたしは命を狙われたんだわさ。あんたは、その事実に、なんにも感じないわけ? てか、頑固すぎだわさ。あんた」


 霊の頭を何度も左右にシェイクしたのち尻尾を持ち振り回す。


 その間も草が生い茂る登山道を駆ける。


 弾むように山をずんずんと登ってゆく。


「まあ、でも、語らないのは、ちゃんとした意味があるんだろうね。しゃーない。しゃべりたくなるまで待つわさ。ともかく宇曽利山湖まで、あとちょっとッ!!」


 おっしゃッ!! 行くわさ。待ってろ。


 そうしてイタコ達は、ようやく風車が沢山回る岩場へと出た。


 ざざっと前傾姿勢で右手を地面へと付けてブレーキをかける。


「うっし」


 ガッツポーズッしてから無い胸を張る。


 ここまでくれば宇曽利山湖までは、あと少し。とりあえず落ち着こうとばかりに両膝に両手を乗せて息を整える。件の語らない霊はイタコの周りを飛び回る。なにかの合図を、どこかに送っているようにも見える。イタコは天真爛漫に笑う。


「多分、晴夜に、ここにいると合図してんでしょ? まあ、あんたの不可解な言動にはもう慣れたわさ。うん。ここで決めてやる。晴夜に思い知らせてやるわさ」


 そう言って、一輪の風車を手に取った。


 イタコの手の中で赤い風車がくるくると風に翻弄されて回る。


「罰当たりになるけど、今は力を貸して欲しいの。全てが終わったら、きっちりと供養するから今だけは、お願い。一緒に晴夜という冷たい青年を救って欲しい……」


 そののち恐山菩提寺をきっと見据える。


 ねえ、そこにいるあんたもあたしに力を貸してくれるでしょ?


 お願い。


 と……。

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