#11 未確認生物
では、なにゆえ、神に近しいものの口寄せには万全と慎重を期せねばならぬのか?
宇津是威が放って自爆したエクソリズムのように大きな力には大きなリスクが伴うからだ。当然、神に近しいものを口寄せする事も例外ではない。強大な力を得る代わりに大きなリスクを背負うという事だ。だからこそイタコは覚悟を決める。
なんとか、ここから脱出して菩提寺を目指す。それしかない。
イタコは晴夜の隙きをうかがって言う。
上目遣いで可愛く小首を傾げて魅せる。
「もしかして、コールドリーディング?」
晴夜がイタコの切り札である口寄せを言い当てた事についての可能性を示唆する。
「ほう。分かりましたか。そうです。あなたが、わたくしの弱点を探っているのを見て真似させて頂きました。無論、精度は、あなたのソレには遠く及びませんがね」
……遠く及ばないなんてよく言うわさ。
圧倒的なセンスに恐怖を覚えてしまう。
あたしが何年もかけて習得したコールドリーディングを一見しただけでコピーしやがった。ともすれば口寄せだって一回でも見せればコピーされる可能性がある。こいつの戦闘力は半端ない。夢の中での事は忘れているのが、せめても救いださわ。
膝が笑って震えに支配されそうにもなるが、それを隠して気丈に振る舞うイタコ。
バレないよう右足に力を込めるイタコ。
霊の尻尾を掴む手がすっぽ抜けないよう、静かに固結びして、霊に微笑みかける。
いくよ。
と息をのみ更に晴夜へと言葉を投げる。
「あたしらは霊の存在を、ごく当たり前に受けて入れているけどさ。あんたは、その他の超常現象を信じる? たとえばUFOだったり、未確認生物だったりをさ」
イタコが精一杯、自分のない胸を張る。
「一体、なんの話です? 今、するべき会話なのでしょうか?」
と晴夜は、意味が分からない質問をされてしまい、困惑する。
チャンス到来だわさ。イタコの緑色をした瞳がきらりと光る。
「あたしの胸は未確認生物級ってねッ!」
と右足から踏み込み、左足で地面を蹴って飛ぶ。晴夜の顔面に向けて蹴りを放つ。
意想外で当惑するような質問をぶつけられて思考が幾ばくかショートした晴夜。そして隙きができる。その隙きにイタコが蹴りを放ったわけだ。一瞬だが、対応が遅れる。蹴りに対して防御するしかなくなる。右腕を顔の前に持ってきて蹴りを防ぐ。
「よっしゃッ! ここまま行くよんッ!」
と力いっぱい彼の右腕を足の裏で蹴る。
がつん。
蹴りの衝撃で尻もちをつく晴夜。一方、イタコは蹴りの反動を利用して更に高く中空へと舞う。跳び箱を足で蹴って飛び越えるよう、晴夜の頭上を悠々と越えてゆく。その様は、八艘飛びの牛若丸に剣術を教えた鞍馬天狗の跳躍にさえも見える。
「三珠流体術、イタコエスケープってね」
左親指を左鼻の穴へと持っていき左手のひらを一杯に拡げる。
そして、
晴夜を飛び越えて彼の背後へと回ると、そのまま鬼ダッシュで、場から消え去る。
「三珠流体術、イタコダッシュだわさッ」
とだけ言い残して。
まあ、イタコエスケープもイタコダッシュも三珠流体術には無いのだが。ノリだ。
尻もちをつかされた晴夜は笑う。嗤う。
冷静沈着な彼にはとても珍しく声を上げて、叫ぶように笑う。
「このわたくしが尻もちですと? 信じられない。どうやら思ったほどにイタコさんは弱い人間ではないようですね。これは面白くなってきましたよ。クククッ」
と……。
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