#03 青年になった晴夜

 彼女の後を、やはりというべきか、当然の如く、しゃべらない霊は付いていった。


 その頃。


 青森県むつ市の町外れに一人の青年が立つ。


 青いローブに身を包み、肩からウエストまでの白い法衣を纏う。左右に分かれた法衣をまとめるよう上部を細い鎖で留めている。鎖が合わさる胸の前には十字架が付いている。顔は整っていて眉目秀麗。むしろ、そのイケメンさが冷たさを助長する。


 青ぶちの眼鏡をかけており、左右の耳には、小さな十字架を、あしらったピアス。


「こんな所まで逃げるとは。ようやく見つけましたよ。……待っていなさい、悪霊」


 この青年、格好から察するに神父に思える。


 いや、間違いなく神父だ。なぜならば彼こそが、宇津晴夜、その人であるからだ。


 夢を魅せた霊は言っていた。ほどなくして、晴夜は、ここに誘われるでしょう。そう仕組みましたと。つまり、一週間も語らず付き纏っている霊こそ、夢を魅せた霊であり、イタコと晴夜を出会わせる事で彼を救って欲しいと考えているのだ。


 つまり、


 イタコが知らず識らずの内に大切にするピアの意味を彼に理解させる為、しゃべらない霊は、敢えて語らず一週間という時を待った。彼が自発的に彼女と対面するように仕組んでいたからこそ。時が満ち満ちるのを静かに待ち続けたというわけだ。


 その頃、


 菩薩寺へと急ぐイタコの頭の右で燦然と輝くコスモスの花飾りが、一際、煌めく。


 キラリ。


 ……ねえ、イタコちゃん?


 君は、この私を救ってくれた。死んでも死にきれない思いを満足で上塗りしてくれたの。ねぇ。覚えてる? あの時の事。本当に嬉しかったよ。生きている時ですら味わえなかった幸福を君はくれたの。そんなイタコちゃんにだから言っておくわ。


 晴夜という青年、彼は深い闇にのまれてる。


 私が感じていた死にきれないほどの悔しさよりも、もっともっと深い闇よ。そんな闇が在るから、今、付き纏っている霊は語らないの。彼を救う為には自分では、どうにもならないと、君を頼っているの。だからね。だからね。だからさ……、


 イタコちゃん、君の素晴らしい力で、晴夜という青年を導いて欲しいと私も願う。


 私を導き諭して、幸せにしてくれたように。


 ふふふ。


 その為だったら協力は決して惜しまないわ。


 もちろん、今まで君が救ってきた人たち〔霊たち〕も、私と同じ気持ちでいるわ。


 だから最後の最後まで諦めないで。君ならばきっとできる。


 きっとできるって信じて。


 だって、私も君に救われたんだからさ……。


 そのコスモスの花飾りが私が救われた証だって忘れないで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る