#12 よしなに

「僕が……」


 自分がココにいたから。強いお祖父様を見たいと付いてきてしまったから。弱くて捕まってしまったから。悪霊に対処できる力がなかったから。悪霊に取り込まれて足を引っ張ってしまったから。だから。だから。僕が、僕が……、僕がぁぁッ!?


 辺りは溢れ出る是威の生命力によって、黄色一色に染まる。


 ニータンが現れた時にオレンジ色に染まった暗闇は黄色くも優しい色に包まれる。


 そして静寂が、寂静が訪れる。


「そっか。…――逝ったんだね」


 放り投げられて、


 是威に語りかけられ、正気に戻った幸村により、事なきを得たイタコがつぶやく。


「うむ。武士以上に武士らしき最後。守るべきものを守って散った。あっぱれなり」


 幸村がイタコの口を借りて是威を褒め称える。


 静かに時が満ちる。唯唯、静かに厳かに……。


「……、弱かった」


 悪霊のニータンと是威が消え去ったあと、へたり込んでいる晴夜が取り残される。


「全ては僕が弱かったのがいけなかったんだ。弱かったから何もできなかった。だから、お祖父様の足を引っ張った。そうなんだ。力なきものは踏みにじられるんだ」


 いまだ自分が弱き事を果てもなく悔い続ける。


 イタコが近寄り、そっと背中に手を乗せ言う。


「違うよ」


 微笑む。


「誰もが弱い。弱いんだよ。だから強がるんだ」


 と続けたイタコ。


 黙って俯く晴夜。


「でも、だから守りたいもの、守るべきものが分かるんだ。だから、力を合わせて」


 と言いかけた時、晴夜は彼女の手を振り払う。


「うるさいッ!?」


 鋭く睨みつける。


「お前になにが分かる。弱いお前に何がッ! 消えろ。消えろってば。消え失せろ」


 と立ち上がった晴夜は心配するイタコの制止を振りほどき、走って、消えてゆく。


「晴夜、あんた、」


 とイタコは為す術なく見送る。


 彼女も自分の弱さを痛感して。


 ただし彼女のソレと彼のソレでは大きく違うのだが今はまだ語るべき時ではない。


 ともかくだ……。


 長かった夢は終わりを迎える。


 あの窓の外に在った霊からイタコへと魅せられた夢は終わったのだ。そしてピアという物語が、よくやく大きく動き出す。晴夜という少年が青年に成長してピアという言葉の意味を理解する、お話が。イタコが大笑いする物語が今を以て始まるのだ。


 ……夢を魅せた霊は言い残す。


 この夢は実際に晴夜に起った事。ただし、イタコ殿は、その場にいなかった。ゆえに事実とは異なります。が、是威は確実に死に、そして、孫である晴夜は生き残った。自分が弱かったと悔やみ力を求めて、力こそ正義だと信じずる晴夜が……。


 だからこそピアを思い知らせて欲しいのです。


 晴夜に。


 ピアが、一体、なんのか。そしてピアの力こそ個人の力ではとても到達できない、とてつもない力を生むのだと思い知らせて欲しいのです。無論、力だけではなく、生きていく上でも、ピアこそ、もっとも大事なものであり、必要不可欠なのだと。


 そう悟らせて欲しいわけです。


 その為であれば、今後、……我は語りませぬ。


 なにも語るべきではないのだと、そう思うのです。ヤツがピアを知るまでは……。


 ほどなくして、晴夜はここへと誘われるでしょう。そう仕組みました。


 何卒、何卒……、


 晴夜をよしなに。

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