#11 エクソリズム

「よし。気づいたな。晴夜よッ」


 生きていたと是威は安堵する。


「もしかして、お祖父様ですか」


「そうだ。是威だ。気をしっかりと持つのだ。お主は助ける」


 愛おしそうに晴夜の右頬をシワの刻まれた手で撫でる是威。


 頬に温かい愛を感じる、晴夜。


「もう時間がない。手短に話す。お主は生き残るべき魂。そしてワシはココで散るべき魂なのだろう。うむ。これからエクソリズムでニータンを体内から吹き飛ばす」


「……吹き飛ばす、のですか?」


 晴夜が息も絶え絶えに応える。


 そんな晴夜を見て優しげな表情で残酷な事を言い放つ是威。


「ああ、そうだ。除霊術、エクソシズムを超える最大奥義でやつを消し去る。ただしエクソリズムを放つという意味は分かるな? ……つまりワシも消えるのだ」


 メル派には、除霊術としてのエクソシズムという技がある。


 エクソシズムは、悪魔祓いにおき、厳かに問いかけて勧告するという意味がある。


 それは神の子の名の下に悪霊を追い払う為に行使する力。しかしながら神の子の名を以てしても聞く耳を持たない悪霊もいる。今のニータンがそうだ。その場合、神の御名において厳命するしかない。それこそが最大奥義のエクソリズムとなる。


 しかし、


 当然の帰結として、強大な力を行使するという事は、同時にリスクも大きくなる。


 ゆえに。


 エクソリズムを行使した場合、行使する力に反比例するように行使した者の体を傷つける。この場合、歳をとり、全盛期よりも衰退した肉体を持つ是威の体はエクソリズムの過負荷に耐えられないわけだ。ゆえに消え去ってしまうというわけだ。


 晴夜はエクソリズムの意味を悟る。残酷な結果を予想する。


「お祖父様……、待って、嫌だ」


 回らない思考で必死にエクソリズム行使の意味を否定する。


「嫌だ。待ってッ」


 晴夜の瞳に澄んだ涙が浮かぶ。


 かたや温かな顔で微笑む是威。


「フフ。大丈夫だ。安心しろ。ワシは、この世から去る。が、天国でお主と再開できる事を願って待っておるよ。いつもまでもな。……ずっとお主を見守っておる」


 ……ではまたな。


 と是威は左手を突き出して右腕を肩の高さと同じに右肘を曲げてから右拳を作る。


 右拳から溢れる黄色い光り。己の霊力とスタミナを混ぜ合わせた生命力の全てを右拳へと集める。右拳から溢れた力は先の尖った細い線となり、拡げ立てた左手のひらへと向かう。まるで弓を引くような所作で左手のひらに纏った生命力を引き絞る。


「嫌だッ、お祖父様、待ってッ」


 溢れる涙のそのままに駄々をこねて是威にしがみつく晴夜。


「嫌だッ」


 晴夜を振り切って技を行使する是威。その顔は、おだやか。


「除霊術、エクソリズムッ!?」


 生命力が左手から解き放たれ、巨大なるエネルギー球となり悪霊の体内で爆ぜる。


「お祖父様ッ!? 待ってッ!」


 ではな。晴夜よ。さらばだッ!


「待って。だから待ってよ。僕が悪かったよ。僕が弱かったから、僕が……、僕が」


 その場で膝から崩れ去る晴夜。


 待って。


 待ってよ。お祖父様。お祖父様ぁぁぁッ! 待ってってッ!

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