#10 倒すべき友

 …――僕は、こんなにも弱い。


 無力だ。


 だから敵である悪霊ニータン・後島にも喰われる。喰われるどころか、僕の霊力を提供してしまった。もちろん、お祖父様ならば僕ごときの霊力が加算されても悪霊など瞬殺できると信じてる……、それでも足を引っ張ったんだ。僕は。弱いから。


 弱いから、無力だから、お祖父様に迷惑をかけてしまった。


 晴夜の体の半分が悪霊の霊体と同化している。


 悪霊に喰われて体内で己の弱さを悔い続ける。


 愚かさと無力さに、苛まれる。


 目を開ける力すら奪われて思考が鈍る中、悔恨の念だけが残ってしまったようだ。


 …――弱さの果てに、こんな最悪の結果を招いてしまった。


 と……。


「晴夜ッ」


 ニータンの体内で消えつつある晴夜を思い是威が飛び出す。


 とても老人だとは思えない速さで悪霊との間合いを詰める。


 体に蒼き加護を纏い、駆ける。


 その様は、さながら蒼き弾丸。


 ……もはや、こうなってしまってはワシも覚悟を決めるしかあるまい。やつの体内へと潜り込み、晴夜を救い、そののち自爆するのみ。肥大化したやつを体内から破壊する。体内からであれば霊力が加算されたニータンとて倒す事は可能だろう。


 老齢な神父は悟ったのだろう。


 精鋭揃いの近衛側近衆であったニータンが、四賢者の孫として絶大なる霊力の素養を秘めていた晴夜を取り込んだ事で外側から攻撃してもダメージは与えられないとだ。だからこそ体内へと潜り込み、自爆する事でしか倒せないと考えたのだ。


 そう己の死をも範疇にして覚悟を決めたのだ。


 つまり。


 生命力を全て燃やし尽くして、ニータンを道連れにするしかないと考えたわけだ。


 覚悟を燃やし全てが燃え尽きるまで、すべからくを焦がす。


 自分の命の炎を以てして友を焼き尽くすとだ。


 右足で地面を蹴り、倒れているニータンの上空に出る是威。


 中空で為す術なく脱力しているイタコの右手を左手で捉える。振り回し、彼女の体に円運動を加えて放り投げる。そののち幸村に頼む。……幸村殿、お頼み申す。今回の件にイタコ殿は無関係。そなたの力を、今一度。彼女を避難させてくだされ。


 そのあとニータンの口を睨む。


「今、行く、待っておれ、晴夜」


 と是威が、いまだに大口を開けて馬鹿笑いする悪霊ニータンの口内へと飛び込む。


 蒼き弾丸のまま口内から喉を通り抜け、胃へとたどり着く。


「晴夜ッ」


 ニータンの胃で体の半分が埋もれてしまった晴夜を見つけると一気に引き抜く。霊力のほとんどをニータンに吸い尽くされた晴夜はぐったりとしている。生きているのか、或いは死んでいるのかの区別すらつかない。焦る是威。冷や汗が噴き出す。


「晴夜ッ」


 ありたっけの大声を出し、孫の名を叫ぶッ!?


 そうしてから右手で彼の頬を何度もはたくッ。


「馬鹿者が。目を覚ませッ。お主はこんな所で死んでもいい魂ではない。ワシが救えなかった数多の魂を救うべき責務を果たせ。お主の救済を待つものは多いのだッ!」


 是威の檄に、晴夜は応えない。


 もはや、命の火は消えていた。


 是威にはそう思えてしまった。


 しかし。


 うっすらと開く、晴夜の右目。


「……う」


 と、小さくかすれた声で呻く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る