#08 真骨頂
決意に満ちた幸村の心意気と確かな勝ち目があると踏んだ是威の口が僅かに緩む。
その目は決意には決意で応えるべきと、とても真剣な眼差し。
「うむ。解った。ここは幸村殿に任せましょう。ワシはサポートに回ります。ただし、やつとてメル派の手練。どうしようもなくなったと判断すればワシがやります」
と胸の前にあった鎖を引きちぎって、銀の十字架を手に取る。
「そなたの手を煩わせる事なきよう、不肖、真田幸村、心する」
と言うが早いか、幸村に導かれ、彼の霊力とイタコの細胞を変化させて作った槍を水平に振り抜く。穂先でニータンのアキレス腱を分断する。不意を突かれたニータンはエーテル体のままだったのか、アキレス腱の傷ができ、赤黒い霧が漏れる。
「いける」
と幸村が右口角をゆるりと上げる。
切られたアキレス腱を持つ左膝を地面に付いて、苦悶の表情を浮かべるニータン。
片膝をついたが為に、頭が下がる。
幸村がニータンの胸前に飛び出す。
体を捻り、穂先を後方へと向ける。
「やはりな。エーテル体とアストラル体を使い分けておる。斬って斬れない事なし。このまま一気に決めさせて貰うぞ。真田幸村の恐ろしさ、その身に刻むがよい」
サポートに回った是威はニータンの折り曲げた右膝を踏み台にして上空へと舞う。
そして、
ニータンの頭上を超えて羽根のように軽やかに飛びがった後、上空で体を捻る。一回転してから右拳を強く握る。固く堅く硬く。そうして体軸回転により、右拳を後方に持っていく。そののち力の乗ったパンチをニータンの頭頂部へと繰り出す。
「覇ッ!」
頭頂部に重い一撃をもらったニータンに大きな隙きができる。
「ぐぬお」
悔しさの余り声を上げてアストラル体になる事を忘れる悪霊。
そして。
先にイタコが解析したニータンの弱点であるアゴへと幸村の十文字槍の穂先が向かう。槍は下限の月のよう整然とした半円運動をしており、蒼い軌跡を残す。そののち鋭き穂先がニータンのアゴを一刀両断する。良し。と不敵に口角が上がる幸村。
幸村が左手に十文字槍を構えてから、力強く地面に着地する。
ニータンは、仰向けに倒れてゆく。
「宝蔵院流槍術に決して負けはなし」
穂先に付いた汚れを落とすように槍を上から下へと振り抜く。
「WAO。真田幸村って、こんなに凄かったんだ。単にゲームで強キャラとして扱われてるから、なんとなくで口寄せしたんだけども、こりゃあ、意外だったわさ」
幸村を押しのけ軽口を叩くイタコ。
「なんと、なんとなくですとッ!?」
信頼とか信義とか言っていた幸村の立場がガラガラと崩れる。
「うん。なんとなく」
「ま、誠でござるか」
「うん。誠。なんとなく強そうだから口寄せしただけ。それが、なんともはや強すぎ。これからもイタコちゃんのピンチにはよろしくね、真田さんちの幸村くん」
近所のお兄さんに遊んでくれ、と頼むノリで言い放つイタコ。
ガクッと肩を落として〔※もちろんイタコの体で〕、体の周りに恨みの青白い人魂を三つ纏わせる。影を背負い恨めしくもなり、虚空を見つめる。そんな姿を見ていた宇津是威は、なるほど、これこそが三珠イタコの真骨頂なのか、と、うなづく。
そうして肩を落として項垂れている真田幸村の背中を軽く叩いて、穏やかに笑う。
「終わりましたぞ。元同胞の不始末、なんとか回収できました。汝に感謝致します」
阿呆が。
阿呆が。
阿呆が。
待てぇ!
「クハハ」
突如、安穏とした空気を壊す笑い。
「馬鹿め。アホが。どうやら私には、まだまだ運があるようだ。天に召します神は我に世界を救うのだと命じておる。そうだ。今、倒れた、ここに何が在ったと思う?」
…――そこに、なにがあったのか?
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