#07 幸村の勝算

 フフフ。


「お祖父様は無敵だッ。だってメル派の中でも……」


 と件の少年の声が、不敵に笑いながら、のたまう。


 彼の言う祖父とは、


 …――昔はイケメンだったと思われる、イタコを助けた老人。悪霊と同じく神父。


 黒いローブを纏い、両襟から細い鎖が胸の前へと伸びている。両鎖の先端には銀色の十字架が付いていて繋がっている。元同胞と言っていたニータンのソレとはデザインが違う。何か意味があるのだろうか。ともかく神父然とした老人が言う。


「ワシは宇津是威〔うつ・これい〕と申します。イイキリ教メル派の神父。ニータン・後島も、また神父です。やつは近衛側近衆を任されるほどの人物。それが……」


 と是威が言った時、


「あいや、お二方、今しばらくのお待ちを。このままでは拙者の顔が立たぬ。イタコ殿の信頼に信義で応えられぬ。ゆえ、今一度、この幸村に任せては頂けぬか?」


 イタコの顔が武将のそれとも見紛う真剣な面持ちになり、無骨なる声で言い放つ。


 どうやらイタコの胸中に居る真田幸村が表に出てきたようだ。


「無論、拙者としても軽業だけで真田幸村の全てだとは思われたくはない。拙者の本分は槍術。十文字槍があれば、件のニータン・後島とて敵ではありませぬ」


 と言ったイタコの口が開いて口内から赤黒いモヤが噴出する。


 モヤは確かな形となり、槍を象る。


 どうやら幸村自身の霊力を消費して、槍を具現化したようだ。


 つまり、


 幸村の霊体の一部。幸村はイタコの体を使って化現化している。ゆえイタコの細胞を使い槍を作り上げたとも言える。その為、具現化した槍は現実にも干渉できる。まあ、イタコの細胞を使っているのだから、彼女の胸が、いくらか縮んでしまうが。


 てかッ!


「おっぱい限定で縮むんですかぁ?」


 兎に角。


 穂先が十文字に枝分かれした真田幸村の代名詞、十文字槍だ。


 十文字槍を左手に持ち穂先を斜め下へと向ける。右腕を胸より、少々、下に突き出す。その手のひらを拡げる。足を拡げてから、キッと悪霊を見据える。その姿は、まさに鬼神であり、真田日本一の兵と呼ばれた風格と威厳を兼ね備えていた。


 ゆくぞ!


「しかし、やつはアストラル体のみの存在。槍での物理的な攻撃をしてもダメージは与えられぬぞ。それでも、お主に勝ち目があると申されるか、真田幸村殿?」


 イタコの中に在る真田幸村を感じとった是威と名乗った老人は真田幸村へと問う。


「先ほど、イタコ殿は、体を伝ってアゴまで到達し申した。であるならば、やつはエーテル体とアストラル体を使い分けておる。そうせねばならぬ理由があるのだろう」


 イタコの口を使い、幸村が答える。


 エーテル体とは乱暴に言ってしまえば人間の肉体を司るエネルギー体。つまりアストラル体が感情を司るエネルギー体であるならばエーテル体こそ肉体の基礎となるもののわけだ。無論、幽霊にとってのエーテル体は現実に干渉する為の手段となる。


 つまり、霊体の実体化とも言える。


 いや、実体化と表現してしまっては、いくらか意味がずれるが、分かりやすく表現するならば実体化と言ってしまってもいいだろう。例えばで言えばイタコの細胞を使って作り上げた十文字槍も、またエーテル体を利用して実体化しているのである。


 そして、


 ニータン・後島はエーテル体とアストラル体を使い分けている。つまり感情だけの空疎な体と実体化された現実的な肉体を使い分けていると、幸村は、そう考えたわけである。であるならばエーテル体の時に討てば勝てると、踏んでいるのだ。


「幸村殿、お主は、やつがエーテル体の時に攻撃を加える事ができるというのか?」


「うむ。いまだ予測の域ではあるが」


 と、赤い十文字槍を一回転させる。

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