#06 イケメン?

 號ゥッ!


 燃えるオーラに包まれて赤いロケット弾と化したイタコが巨大神父のアゴを狙う。


 チンに強烈なキックをお見舞いしてやるわさッ!!


「クハハ。アゴを狙うか。なかなかの慧眼。だが無駄。無駄。我が霊だという事を失念したか。霊で在るがゆえにアストラル体のみにもなれるのだよ。残念だったな」


 アストラル体の意味が分からないイタコは、そのまま巨大神父のアゴに突っ込む。


 もちろん、空虚と化した神父の体を、すり抜ける。


 意味が分からないと小首を傾げて顎に手をあてる。


「な、なんなん?」


 そのまま神父の体を突き抜け背後へと放り出されて当然とばかりに重力に負ける。


「あり得んがなッ」


 と胡散臭い関西弁になったイタコは成す術なく下へと落ちてゆく。


 下へ下へ下へと。


 このままでは地面だと思われる場所に彼女の体は叩きつけられる。


 水泳のクロールを真似て虚空で泳いでみるが、どうにもならない。


「アーレ、ハーレ」


 危機において、どこか危機感がないのは、やはり、と言うべきか。


 ソコに向かい、一人の男が飛び上がる。とても人間業だとは思えない運動能力を魅せ、落ちてくるイタコを空中キャッチ。キャッチの仕方が小憎らしい。お姫様抱っこ。そのまま、抱え、足の裏に朱色のオーラを纏う。ふわりと地面に着地。


 イケメン登場ッ!


 こんなに格好いい所作で現れたならばイケメンに間違いはないぞ。


 しかも、イタコちゃんのピンチに駆けつける絶妙なるタイミング。


 このあと、イケメンさんとイタコちゃんは熱き恋に落ちて、ラブラブファイヤー?


 興奮するイタコ。


 ……色めき立つ。


 くそ、逆光で顔も何もかも全部シルエットだわさ。


「悪霊はワシの元同胞であるニータン・後島と申します。別件の悪魔祓いで逆に悪霊にとり憑かれてしまったのです。そしてここにいる。だからワシが倒すべき相手」


 と男は、ゆっくりと優しく地面にイタコを降ろす。


 ドキドキな瞬間が、もう鼻の先まできてるわさッ。


 その後、悪霊の顔をキッと睨みつけ立ち上がる男。


 むううん。てか。


 てか、てか……。


 イケメンさんは、


 爺ちゃんでした。


 はい、爺ちゃん。


 凄い身体能力で格好いい登場したけどシワシワの爺ちゃんだわさ。


 いくらイタコちゃんの守備範囲が広くても六十代後半で七十に手が届くようなお方は、さすがにきついッス。いや、相手も、あたしなんか赤ちゃんに毛が生えた程度だわさ。まあ、確かに顔つきから昔は格好いいイケメンだった感じはするけども。


 今は、昔だわさ。


「ともかく、ここはワシが引き受けますから、イタコ殿は避難しておいてくだされ」


 と過去はイケメンだったと思われるお爺ちゃんが優しく微笑んだ。


 まあ、爺ちゃんでも格好いいかなとイタコの少し顔が赤くなった。


 そんな中で……、


「あのアホが余計な事をするから、ようやくお祖父様の出番がきた」


 とまたあの醒めた声が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る