#04 憑依

 …――フン。お祖父様にかかれば悪霊など瞬殺です。


 小さな声が、イタコをあざ笑う。


 彼女のテンションが上がって、周りにいる霊達が喜んでいる中、霊とは違う生者と思える声が、彼女を否定する。いや、否定するというよりも、その声の主が、お祖父様なるものを絶大に信頼しているからこそ醒めているだけなのかもしれない。


 ゆえに、声は冷ややかで達観してるようにも感じる。


「まあまあ、とにかくアレだわさ。さっきまで、夜通し、サラリーマンなんかの愚痴を聞いてたからさ。お子様のイタコちゃんが、おっちゃんモードだったわけさ」


 イタコは両手を前へと突き出して手のひらを拡げる。


「口寄せ、リストラ・ニラ耕作ってね。ここからは戦モードでいくよん。よろピコ」


 口を三日月にして声をあげ笑う。


 途端、緑の瞳がくるっと据わる。


 拡げた両手が青白くも淡く輝く。


「三珠降霊術、口寄せ、真田広之」


 イタコが歯を見せて不敵に笑う。


「……ッ」


 周りの闇の中にいるであろう霊たちが一様に、一体なにが起こるのかと息をのむ。


 シーンとした辺り一面。彼女の額に冷や汗が浮かぶ。


 あ、あの。ごめん。ごめんして。


「間違えた。済まぬ。真田広之さん、まだ生きてるし。しかも芸能人を口寄せしても戦には役立ちまへんがな。真田は真田でも幸村さんの間違いでごじゃりました」


 一昔前のギャグ漫画のように緊張していた霊たちは、ずっこける。


 わざとらしく目を細めて可愛らしい舌を出し、右手で己の頭を軽く小突くイタコ。


 そして場は和む。これを狙った。


「てへへ、めんご。やり直すわさ」


 その後、また両手を前に突き出し手のひらを拡げる。


 拡げた両手が再び淡く輝き出す。


「三珠降霊術、口寄せ、真田幸村」


 イタコの顔がどんどんと険しくなってゆく。八重歯がガタガタと揺れて赤くなる。


 同時に両目の下には二つの赤い牙な文様が現れて銀髪も赤くなる。


 どうやらイタコが想像する赤備えが現れて、化現化したのだろう。


 いつの間にか彼女が着る寝間着まで赤くなっている。


 青白く光っていた両手のひらのオーラまでもが赤い。


「赤備えってゆうのはね、闘争に関わる男性ホルモンのレベルを上げる作用がある赤っていう色を甲冑に着色して身体スペックを上げるっていう意味があるのさ」


 説明臭いのは、敢えてで、そうしているのだろうか。


「つまりイタコちゃん、最強ってわけさ。オーライ?」


 もちろん、赤備えを化現化させただけではない。今、彼女の平らで残念な胸の中には真田日本一の兵と呼ばれた真田幸村が宿っている。確認するまでもないが、口寄せとは、霊界にいた霊を己の体に呼び、憑依させ霊が持つスキルを再現するもの。


 つまり、


 今の場合で言えば真田幸村という最強の武将が持つ技術と知恵をイタコがトレースできる状態というわけだ。もちろん、体の線が細い彼女が完璧に真田幸村をコピーできるかと言えば、それは疑問符が付く。ただし、三珠流には確固たる体術もある。


 それは、


 先にボクシングのパンチさながらの黄泉の送り火という技を繰り出した事からも分かるよう彼女は体術にも長ける。ゆえに、ある程度の精度で真田幸村の技術を再現する事は可能だという事。まあ、それでも、ある程度でしかないのだが……。


 赤鬼化したイタコが目を細めて右口角をあげて笑う。

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