#03 二言なし

「諦めるのは、やってからだわさッ!」


 敢えてだろうか口に出して繰り返す。


 無論、精神論と呼ばれるもの。それでも、これが彼女の生き様。


 暗闇の中、彼女の声が木霊して反響する。そんな彼女の声へと無数の声が重なる。


「誰だ?」


 ある声がイタコに問い別の声が続く。


「誰だッ!? 余計なお世話だよ。ただ悲しみたいだけなんだ。絶望が待っているなら悲しむくらい許してくれよ。それくらい、いいだろうが。消えろよッ!?」


 続いた声がイタコの存在を否定する。


 またもや別の声の嘆き、悲痛な思い。


「そうだ。愚痴りたいだけなんだ。どうしようもないから、せめて愚痴って、すっきりしたいだけ。それを頑張れだって? 頑張っても、どうしようもない事はある」


「そうだそうだ。部外者が余計なお世話なんだよ。消えろッ!?」


「消えろ、消えろ」


 罵声を浴びせられたイタコの右口角がゆるりと上がる、不敵に。


「そうかいや。分かった。でもね。諦めて、愚痴って、なにかが変わる? 愚痴って、何もせずにいて何かが変わる? ダメで元々と頑張ってみるのは間違いなの?」


 多分で、もしかしたらだけども、頑張ったら、なにかが変わるかもしれないわさ。


 ダメだと諦めてた事ができちゃうかもしれないわさ。


 と言いたかったが、イタコは言わなかった。言うべきではないとそう思っていた。


「まあ、でも考え方は人〔霊〕それぞれだからしゃあない。ここは、いっちょイタコちゃんが、ひと肌脱いでやりますか。で、敵わないあいつって、どこにいるんよ?」


 右拳を握り左手のひらを被せて、パキパキと鳴らす。


 彼女の緑色をした瞳の色が濃くなる。


「あたしが倒してやるわさ。任せなッ」


 新緑が揺らめき立って、燃ゆるよう。


 再び、右拳でパキパキと音を立てから次に左拳に右手を被せてパキパキと鳴らす。


「相手が霊ならば、あたしの敵ではあぁりぃません。むしろ仲間にして異世界で無双してやるわさ。よっぱらいのロリコン、おっぱい星人よりは骨があるんでしょ?」


「倒してくれるの」


 一つの声が戸惑いながら恐る恐るイタコに確認する。


「ああ、任せておきなって。イタコイコールでリコールはなし。女は度胸。とっと倒して、あんたらも一緒に成仏させてやるわさ。燃えてきた。やったるでえッ!!」


 他の声たちもイタコの発言を聞いて、どよどよと、どよめき、戸惑いながら喜ぶ。


「本当か。お前を信じてもいいのか?」


 イタコは、嬉しそうにガッツポーズ。


「うん、女に二言なし。任かせなさい」


 右手を胸の前に出して手のひらを顔に向けてから拡げ、親指以外を内側に動かす。


「カッマーンッ!」


 カッマーンとは多分にカモンだろう。


 彼女のテンションは上っている。どうやらガキ大将気質のイタコにとって頼られるのは本懐なのだろう。頼ってきた人〔霊〕を絶対に助けるべきだと決めたようだ。そうして、拳を握り、右腕を回して、力強き右ストレートを虚空へと放つ。


「ククク。三珠流体術、黄泉の送り火が火を吹くぜぇ」


 と不敵に笑った。

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