第2話:出会いは偶然に

知基と陽香の出会いは奇跡に近かった。


二人が出会ったのは知基が大学2年生、陽香が高校2年生の時だった。当時、二人は東京と神奈川で距離こそ離れていなかったものの、週に1度は東京に遊びに行っていた。


ある日、陽香がオンラインゲームをやっていると、男性のプレイヤーさんであるクラッシャーさんから声をかけられた。その人は東京に住んでいる大学生で、彼女のプレーを褒めてくれて一緒にグループを組んでプレーすることも増えた。


何回か一緒にプレーをしたのち、今度一緒に遊ぼうというお誘いがきた。彼女は最初戸惑ったが、友人同席を条件に遭うことになったのだ。


会う当日になり、彼女は今まで着ていた服の中で東京に行くときに使う勝負服を着て、高揚した気分で約束の場所に向かった。


彼女が待ち合わせのために向かったのはいつも遊んでいる街ではなく、ちょっとおしゃれな街だった。


最寄りの駅に着いて、改めてびっくりしたのはいつも遊んでいる場所とは違い、行き交っている人がどこか余裕がある人が多い印象だった。その後、彼女たちは改札を出ると、待ち合わせ場所に向かった。その日は休日ということもあり、駅構内も街中も人でごった返していた。待ち合わせの場所に着き、男性のプレイヤーさんと3人の男性が立っていた。陽香側も3人の友人がいたため、お互いに自己紹介をしていた。すると、その中にひときわ目を引く男性がいた。その人が後に付き合うことになる知基だった。最初はみんなでざっくばらんに過ごしていて、半日程度ではあるが楽しい時間を過ごすことが出来た。


そして、遊んだ日の夜にプレイヤーさんと少しやりとりをしていてふと恋愛の話になった。「陽香ちゃんは好きな人いないの?」と彼に聞かれると、陽香は「気になっている人はいるのですけど、うまくいくか心配で・・・。」という不安にも取れるような返信だった。


それから2ヶ月後のことだった。突然、知基から連絡が入った。その時、彼女は胸がいっぱいになった。というのは、今まで彼とは連絡を取っていたが、これまで向こうから連絡が来ることはなかった。


陽香は彼から来たメッセージを開くと


“陽香ちゃん。こんにちは。お久しぶりです。自分はやっと大学が終わり、一段落しています。


陽香ちゃんはどんなゲームしているのですか?


教えてくれると嬉しいな。“


というメッセージを見て彼女はすぐに返信した。すると、彼から“今度一緒に遊ぶ機会作りたいな。”と返ってきた。


この返信が来たとき、彼女はどうしたらいいのか戸惑ったのだ。なぜなら、彼女は以前に遊びに誘って当日にキャンセルされた事があった。そのため、本当に来てくれるのか分からなかったからだ。ただ、彼女にとっては片想いの相手であることは間違いないし、このチャンスを逃すと他の人の彼氏になってしまうかもしれない。という気持ちがあった。


そして、彼女は考え抜いた結果、彼と遊ぶことにした。その後、彼に“いつならお時間ありますか?”と送って返信を待った。


数時間後、彼から返信が来た。内容は“今度の週末はどうですか?難しい場合には会える日程を教えてください”というものだった。彼女はすぐにでも会いたいという気持ちが先行していたため、週末に会えるようにアルバイトを調整した。


そして、週末に彼と初めて二人で会うことになった。その時はまだ高校生だった陽香はどんな服を着ていくか、どんな靴を履いていくかと気持ちを高まらせていた。


翌日、彼女が学校に行くと同級生のカップルが仲良く談笑していた。陽香はどこか男子生徒を彼、女子生徒を自分に置き換えてイメージしていた。


そして、週末になり、彼と遊ぶ日の朝になった。彼女は心配で仕方がなかった。「また、ドタキャンされるのではないか?」・「彼が来てくれないのではないか?」と以前の出来事が頭の中を渦巻いていて、待ち合わせ場所に向かうまで不安を払拭することは出来なかった。


待ち合わせ場所に着き、周囲を見渡すと彼が待ち合わせ場所とは少し違う場所に立っていた。それを見た彼女はすかさず彼の元に駆け寄っていった。すると、彼が「少し距離を取ろう」というのだ。彼女はなぜなのか最初分からなかったが、とりあえず距離を置いて会話するなどしていた。その後、二人は買い物や食事と前回とは違って時間を過ごした。ただ、最後まで距離を取ろうと言った真意が分からなかった。


 そして、二人は一日中遊んだあとで帰路に就いた。


 車窓の風景を見ていると、モヤモヤしている気持ちが少し薄れたような気がした。


その夜に彼から連絡があった。内容は無事に帰れたかどうかと今度会える日を聞いてきたのだった。最初は雑談という感じだったが、彼女がやりとりしているうちに再びモヤモヤが止まらなくなり、彼女は彼に「今日、なんで距離を取ってと言ったの?」と聞いてみた。


 すると、彼が「実はまだ話していなかったのだけど、モデルにスカウトされて、事務所に所属することになるから週刊誌などに狙われた場合に致命傷にならないように」と彼がモデルになったことを知り、びっくりはしなかった。ただ、彼の場合はスカウトされて事務所に入ったため、これから忙しくなるのだろうと思っていた。


彼の夢はモデルをやりながらeスポーツのプロの選手になることだった。


 しかし、彼はその夢が揺らいでいたことは間違いなかった。なぜなら、モデルの仕事は一切来ず、毎日ゲーム漬けの毎日で、当初は大学とバイト先と家を往復する生活を送っていた。


 ある日、バイト先から帰宅する途中で彼のスマホが震えた。


そこに書かれていたのは彼の大学で受けている授業がオンラインに切り替わるかもしれないという連絡だった。仮にオンラインになるとバイト先と家を往復するだけの生活になる。友達とも会えない、場合によっては悠花とも会えない可能性があることを想像したのだが、なかなかうまく想像することが出来なかった。


 結果的にはオンライン授業は免れたものの、彼の生活が一変することは間違いなかった。


 その理由は彼のプロゲーマーになるという夢が大学の授業よりも大きくなっていき、オンライン授業をこなさずにひたすらゲームをしていたのだ。


 その結果、彼はある程度溜まった頃に適当にシラバスを読んで、レポートを出していた事がバレて学校に呼び出されることになった。


 授業をやっている教授からは「知基君は学校を卒業する気はあるのか?」と聞かれて、彼が「卒業できれば良いです。」と答えた。


 その答えを聞いた教授は「彼は本当に勉強する気はないのではないか?」と思ったのだろう。


 結果、彼はその教授の授業を落とし、2年生までに取得しなくてはいけない授業の一部を除いて落とすことになり、来年の前期だけ隙間なく授業を受けなくてはいけない状態になってしまったのだ。


 そして、夏休みに入ってバイトとゲームで終わる日が続いた。


 そして、夏休みが終わり、オンライン授業が始まると彼は勉強する気がなくなり、再び怠惰な生活が始まってしまった。


 そして、本格的にモデルの仕事が入ったと思えば今度はモデルの仕事に打ち込みすぎて大学の勉強がおろそかになってしまった。


 彼は大学を卒業することだけが目標だったため、最低限の成績を取れれば良いと思っていたのだ。そして、大卒なら良い給料もらえて、良い会社には入れるという安易な考えを持ってしまったのだ。


 その考え方でこれまで受講していたため、後に就職することに苦労する事になるとは思っていなかった。


 2人は先生との面接から2週間後に再び遊ぶ約束をしていた。場所は夢の国だったが、電車で行くか車で行くか迷っていたのだ。なぜなら、彼女は高校生のため、条例という厳しいハードルがあるため、電車などで帰らせることで時間を過ぎてしまったときにどうにもならなくなってしまう。


 そして、彼女の高校は補導されると学校を退学になる可能性があるため、彼女の受験に影響が出てしまうと思ったのだ。


 彼はどうやって行くべきかギリギリまで悩んだ。ただ、少し早く出ることで何とか条件をクリアできると思ったため、電車で行くことにした。

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寒い冬の小さな愛 NOTTI @masa_notti

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