第34話 sideシン 7


 町から出て、護符の導きを頼りにコニーのあとを追った。

 追ったつもりだった。


「えっ」


 でも、城下町を——『ファウスト王国』を出た瞬間森に出て、思わず立ち止まる。


「確かに『結界の中』とは言ってたけど……こういうことだったのか……」


 光の壁が真後ろに現れた。

 国内から見た時は森が続いているように見えたけど、森は森でもなんか思ってたのと違う。

 緑の森なのは同じなのだが、なんも言えばいいのだろ……そう、空気が違う。

 匂いも違う。

 国内から聞こえていた動物の鳴き声は皆無。

 むしろ耳が痛くなりそうなほどなんの音もしない。

 ……ああ、なるほど、違和感の正体は音か。

 あまりにも音がない。

 まるで雪原に一人でいるみたいだ。


「わざわざ一人でやってくるとは……いや、のこのこ、かな」

「!」


 後ろからすごい魔力を感じて思わず距離を取る。

 赤い竜人……?

 最初は冒険者かと思ったら、みるみるその見は赤黒い鎖に覆われていく。

 これは、あれだ……多分俺がこの世界に来たばかりの時に、俺とコニーを襲ったという——。


「妖魔……」

「さすがに理解したか。そうだ、我々はお前を捕食する者だ」

「言い方が気持ち悪い」


 白目の部分が黒く変わり、黒目だったところは赤く変わる。

 コニーの話では、俺たちを襲った妖魔は竜、獅子、蛇。

 こいつがその『竜』の個体と同一かはわからないけど、聖霊神の加護がなければ、倒したところであの巻きついている鎖が俺に巻きつく。

 それが妖霊神の『呪い』。

 普通に迷惑。気持ち悪い。


「コニー……コニッシュ・スウはどこだ?」

「ククッ! 知りたければ来い。我らの故郷へ」

「っ!」


 早まったかなぁ、と思わないでもない。

 突然足下が赤く抉れる。

 空間が切り替わったのだ。

 妖霊神界とか呼ばれていたな、確か。

 妖霊神と、妖魔が住まう世界。

 多分、それもまた妖霊神の結界によって隔離されているのだと思っていたけど……まさか地下にあったのか。

 いや、すごくけど。

 でもミゲルさんが来るのを待っていればよかったかも、って思いながらも……。


「!」 

「倒せなくても無効化すれば問題ないよね」


 地面に着地した時、即座に全身に身体強化を巡らせて竜の妖魔を神符しんふに封じ込める。

 俺が無為に過ごしてたとでも思ってたのだろうか。

 これでも一応、聖霊神とやらに招かれた『招き人』だ。

 俺にも聖霊神たちから賜った加護ってのがあった。

 コニーには、心配をかけそうだから黙っていたけど。


「封印符……」

「!」


 獅子の妖魔。

 それから蛇の妖魔。

 その後ろからもぞろぞろと多種多様な妖魔が近づいてくる。


「招き人め……黙って我らに喰われおればよいものを」

「楽には殺さぬぞ。生きたまま生皮を剥いでやる」

「攫った女の子はどこだ」


 奴らの話なんか聞いてられない。

 質問するとケタケタと笑い声が広がっていく。

 うわあ、やな感じ。


「間もなく同化が始まる。あの娘は妖霊神様が欲する【認識阻害】を発現させた!」

「与えられた祝福で、どのような加護が発現するかはその人間次第」

「ずっと欲していた、【認識阻害】の加護! あの娘は選ばれた! 我らが神に、えらばれたのだ!」

「?」


 なんで、と言いたいが、その前に蛇の妖魔が襲いかかって来た。

 神符が際限あると思われてる?

 残念ながら俺が与えられた加護をスキルに昇華したら、何枚でも作れるようになってるんだよね、神符。


「妖霊神も封印できるかな? やってみよう」

「ふざけるな!」

「くそ! 何枚持っている! 生意気な!」

「おとなしく食わせろ!」

「やだよ」


『神符』——護符の上位符。

 神の紙とかなんのギャグかと思ったけど、妖霊神に対して絶対の効果を持つ。

 多分『ヒカリ』が四大属性の聖霊神を召喚する加護スキルを持ってたから、俺にもそれに近い、高位の加護が与えられたんだろう。

 ただ、俺に加護を与えたのは——光の聖霊神っぽい。

 コニーに話すときっと気にされる。

 だから黙ってた。

 ミゲルさんや騎士隊長にも鍛えてもらって、魔力の使い方とか体の動かし方、戦い方も教わって、俺はある程度戦えるようになってる。

 武器があれば気持ち的に心強いんだけど、妖魔相手なら素手で——神符をばら撒いて手当たり次第に封印しまくった方が効率はいいかも。

 そう、封印。

 封印でしかない。

 倒すわけではないから、いつか、俺が今より強くなったら……この護符を引き裂いて、お前たち全員倒す。


「ぎゃあ!」

「くそ、吸い込まれ——!」

「おのれおのれおのれぇ!」

「!」


 粗方封じ込めた時、地鳴りがして立ち止まる。

 もしかしてあれが妖霊神?

 いや、違うな……勘だけど。

 ものすごく長くてでかい、髑髏の化け物。

 全身に赤黒い鎖を纏った、えーと、そう! がしゃどくろ、っていう妖怪そっくり!


「…………」


 うん、がしゃどくろ、だと思う。

 そして多分、俺が知ってる妖怪がしゃどくろより、やばい。


『ごおおおおおおおおおおおおおおおっ!』

「おわーーーっ!」


 なんか変な赤黒い火吐いた。

 神符が燃える!?

 え、待って…………神符が燃やされた!?


「っ!」

『妖霊神サマノ モトヘ ハ 行カセ、ヌ』


 しゃべるの……。

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