第20話 魔法ギルドへの道にも慣れました


「だから、お守り的なやつ。お金は払うよ!」

「え……で、でも、それ、そんな……い、いつ……」


 いけない、なんでこんなに動揺しているんだろう。

 シンは一ヶ月、毎日鍛錬してる。

 きっと私が知らないだけですごく強くなってるのかもしれない。

 だってシンは招き人だもの。

 でも、でも……!


「三日後」

「みっ!?」

「三日後じゃあ、あまり強力なものは作れまへんなぁ」

「そうなの?」

「刺繍は時間がかかるんどす。コニッシュはんの縫う護符袋は、レイヴォル王国の細かくて糸の色も多く使うものなんどすぇ」

「そうなんだ」

「あ、で、でも、ぬ、縫います……!」


 護符袋は、レイヴォル王国の刺繍方式だと効果が高く出やすいらしい。

 多分、だけど魔力糸を多く使うから。


「本当? 無理しなくていいよ?」

「む、む、無理ではないですよ……! 作ります」

「ありがとう!」

「っ」


 嬉しそうに微笑まれて胸がどきりと跳ねた。

 この感覚……セリックがお見舞いに来てくれた時に似てる。

 どうして?

 シンはセリックとは違うのに……。


「そんなら護符袋に入れる護符も、コニッシュはんが作ってあげたらええんと違います? コニッシュはんの付与魔法能力なら護符も作れますわ、多分。売るもんと違いますし、一枚くらいなら魔法ギルドに登録もいらんでしょ」

「え、わ、私が、ですか? でも、護符そのものは作ったことないですし……」

「物は試しどす。こういうのは気持ちどすぇ」

「そ、そうでしょうか……?」


 護符袋は護符の効果を長持ちさせるもの。

 確かに護符袋に込める護符効果の付与は、趣味の刺繍を応用すればできる。

 でも、護符そのものは違う。

 専用の紙に、星砂インクで魔法陣とその効果を持続させる呪文を描く。

 一文字も間違えられない。

 この国には護符師という専門の職業の人までいるくらい、難しいのだ。

 護符専門の紙だって無料じゃないし、星砂インクも高価なもの。

 貴族の誓約書で使用する特殊なインクだもの、安いはずがない。

 それも買わないといけないし、どう考えても今の私じゃ……。


「ケートはんに頼めばよいんどす。あの人、鑑定士の他に護符師や呪具師もやっとるようですから」

「ええっ……!?」


 あ、あの声は女性だけど包帯ぐるぐる巻きでなんか怖い、あの鑑定士さん……!?


「前にコニッシュはんの加護を鑑定してもらいに行った時、魔法ギルドでケートはんの職業一覧を見せてもらいましたけど、かなり優秀な方でしたぇ。さすがはマミーですわ」

「マ、マミーってミイラ? あの人も魔物だったの?」

「マミー種は我が国では魔人のくくりどす」

「「わ、わぁ……」」


 そうだったの〜……。

 シンもなんか引いてるけど、マミーって、ミイラって、し、死体的な……?

 死体が動いてる系の……?

 ひ、ひいぇぇぇえ……!


「マミー種はリッチ種の進化前の魔人どす。高い魔力を有した人型の魔人、または人間が死後に魔力の高さから発生します。皮膚が非常に弱くて、特殊な包帯で覆わないと体が崩れてしまうそうどすわ」

「え、人間も死後マミーになったりするんだ?」

「この国にいるマミーはほとんどレイヴォル王国からの流れ者どす。コニッシュはんも死んだらきっとマミーになりますぇ。今のうちに仲良くしとくとええんと違います?」

「ええええええっ!? い、いやですぅ!」

「嫌ならマミーにならないように、マミーにならなくて済む方法とかケートはんに聞いておくとええんと違います?」

「あ、あううう……」


 それって結局ケートさんには会わなければならないのね……!

 でも死後にマミーになるのは嫌〜〜〜!

 なんとなく怖いけど、ケートさんに会いに行って色々教わる……しかないのか。


「それってもしかして俺も……?」

「あ……」

「可能性大どすな!」

「お、俺も行っていい!? マミーにならない方法、俺も聞きたい!」

「行きましょう!」


 ——というわけで、朝食後……私とシンとジェーンさんは城下町へと出かけた。

 やはりまだ夜=朝、というこの国の常識には慣れない。

 とはいえレイヴォル王国のように陽が昇る=朝、だとお店もほぼ開いていないし、開いているお店は水商売や“夜間食堂”とかだし、歩いている魔人さんは“夜勤”だし、慣れていかなければならないのよね。

 それに空は真っ暗と言っても、町は提灯や灯籠で歩くのは問題ない明るさ。

 魔法ギルドへの道も、受付さんへの依頼のやり方もちゃんと覚えたわ。


「鑑定士のケートさんにお会いできますか?」


 魔法ギルドの受付でそう聞くと、一つ目玉のサイクロプスの女性が「お待ちください」と丁寧に対応してくれる。

 この国に来たばかりの頃は一人で歩くのがすごく怖かったけど……最近こういう種族の人にもかなり慣れたな……。

 私の魔眼を見ても、本当に誰も気にしないし。

 やはり私が気にしすぎなのだろうか?

 でも、やっぱり……。


「お待たせしました。現在来客中のようですが、間もなく終わるそうなのでお店の前でお待ちください」

「ありがとうございます」


 とはいえ、やはりこの移動魔法は怖いので目を閉じて三十二階まで昇る。

 廊下に降りると、店舗からちょうどお客さんが出てくるところだった。


「…………?」


 ぞわりとした。

 すごく綺麗な女の人だったけれど、頭に角がある。

 蛇の魔人であるプリンさんのような鱗。

 赤い髪、真っ黒な瞳……あれ、この人……前にどこかで見たような……?


「コニー? どうしたの?」

「美人に見惚れるのがシンはんでなくコニッシュはんとは。そういう趣味だったんどす?」

「ち、違いますよっ! ……なんだか、見たことがある気がしたんですけど……」

「うん? 珍しい人でしたぇ? 多分セレンティズ竜王国からの冒険者さんと違います? あの角の形は竜人種の人どす」

「竜人……!」

「この国には住んでまへんけど、冒険者さんはよく来ますぇ」


 竜人。

 ……竜人? 本当に?


「そ、そうなのでしょうか……?」

「どういうこと?」

「え、ええと……よく、わからないんですけど……」


 なんだろう、どう言えばいいのだろう?

 でもなんだかおかしいの。

 竜人と聞いて、直感のようなものが「違う」と叫ぶのだ。

 でも、本物の竜人を見たこともないのになんでそんなことが言えるの?


「次の方〜」

「あ、行こう」

「はっ、あ、は、はい、そうですね」


 今考えても仕方ない。

 それより、せっかくここまで来たんだもの、ケートさんにしっかり色々聞かないと。

 お金も払っていることだし!

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