第19話 新しいご縁
それから一週間後——。
「「おお〜〜〜〜」」
「こんな感じでよかったの?」
「は、はい! バッチリです!」
ならよかったわ、とにっこり微笑むのはアライグマ種の魔人、ジファーさん。
レアの花染めの職人さんで、ジェーンさんが試作品をお願いしていた。
そしてもう一人。
「はぁ〜、変なことを考えつくもんだなぁ」
「だ、ダメだったでしょうか?」
「ハハ、まさか。それなら最初に断っているよ。ちょっと仕掛けに苦労したけどね」
「す、すみません」
「ただ、量産は難しそうだよね」
「そうですね……」
こちらのお猿さんの魔人はドットさん。
扇子の串……もとい骨の部分をお願いした。
本のように開き、ぱちんと交差部分——要で固定するような仕様を作ってもらったのだ。
染め物屋さんのジファーさんに華やかな生地を作ってもらい、ドットさんの作ってくれた特別仕様の骨組みで、私が一週間かけて作った立体の花柄。
そうして完成した、護符効果付与付きの、立体刺繍扇子の試品……!
「…………微妙どすな」
「で、ですね」
「豪華ではあるわねぇ」
「完全オーダーメイドでもちょっといらねぇなぁ。でも美術品としてならアリかもしれん」
「「「美術品!」」」
なるほど!
と、顔を上げたけど、それってジェーンさんの希望に添えないのでは……?
「確かに美術品としてお城に展示できるようなレアの花染は一度作ってみたかったのよねて」
「だよなぁ、オレも城に飾られるような美術品を作ってみたかったんだよ。とはいえ、扇の骨組み職人にゃあ陛下のお使いになる扇子の骨組みを作るくらいしかできねぇと諦めてたんだが」
うっ、でもジファーさんとドットさんは盛り上がり始めてしまった……!
そしてすごく熱量を感じる……!
これはもしかして別途作る方向で考えた方がいいのかも……?
「どうだい、コニッシュさん。オレたちと城に献上できるような、どでかい観賞用扇子作りを一緒にやらないか!?」
「ねえ、やりましょうよ! あなたの考えた立体刺繍も素敵だし、きっと陛下も認めてくださるわ!」
「ええんと違います? 城に献上できるレベルのもんができれば、宣伝効果バッチリどすぇ」
「な、なるほど……!」
確かに王様に献上した職人は、貴族たちからも声がかかりやすくなる。
陛下が認めたもの、それはイコール一流品ということだ。
当然その栄誉は後世に語り継がれ、歴史に名を残し、作品は保管されて後の世の人たちにも鑑賞される。
「……素敵ですね。でも、私なんか……」
「あら、なに言ってるのよ。この中で立体刺繍のやり方を知ってるのはコニッシュちゃんだけよ」
「そうだぜ、頼むよ。リアの花染立体刺繍護符付き扇子は、あんたの協力なしでは作れない!」
「お願い、協力して!」
「は、はわわわわわ……」
「どないしはります?」
ジェーンさんに聞かれて、そう言われたら、もう……。
「や、やります!」
「ありがとう! よーし、そうと決まれば設計図が必要だな」
「デザインは任せとくれ! まず試作品を作ってからだね。立体刺繍は時間がかかるだろうから、あまり多くはできないけど……花の部分は全部立体刺繍で頼みたいね」
「わ、私なんかができるのでしょうか……そもそも刺繍だって趣味程度のものでしたし……」
「この国ではコニッシュはんしか、立体刺繍のやり方を知らないんですぇ」
「あ、あう」
でもやろうと思えばできると思うし、というと、ならば知り合いの刺繍屋さんに立体刺繍を教えてやってくれと頼まれる。
依頼料は払うし、その刺繍屋さんが学ぶつもりになったら刺繍屋さんから勉強料をもらえるだろうから、と。
なんだかどんどん話が大きくなっているような気がするんですけど。
***
「ふーん、最近忙しそうなのはそういうことなんだね」
「は、はい……」
「そしてすごく疲れ果ててるね」
「は、はい……」
そんな感じでここ一ヶ月は新商品の開発と通常の護符袋作りの他、美術品としての『レアの花染護符効果付き巨大扇子』——名称現在検討中——の試作で忙しい。
借りているこの屋敷は、往来沿いに店舗のような小屋があるためそこで護符袋を売るつもりなのだが、そんな理由でまだ商品が売れるほどの数を確保できていない。
レアの花染以下略、と新商品開発で通常品の刺繍製造が間に合っていないのよね。
お味噌汁を飲みながら、目の前に座って白米をかき込むシンをチラリと見る。
毎日朝の挨拶はしていってくれるけど、今日は朝の訓練がないから一緒に朝食を食べることになった。
誘ってくれたのはシン。
ジェーンさんもニヤっとして三人分のご飯を作ってくれた。
今日もジェーンさんのご飯が美味しいです。
「でもまだ護符袋店は開店できないんだな」
「は、はい」
「俺もコニーの作った護符袋、ほしいなー」
「え、つ、作りますか? どんな効果が……あ、で、でも、私が作ったものは、そんなに強い効果じゃないですよ。それでもよければ……」
「うん、それでもいいよ。実は今度ミゲルさんに頼まれて森の中に出た、ジャンプオオトカゲっていう魔物討伐に行くんだ」
「えっ」
顔を上げる。
魔物の、討伐……!?
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