第18話 新商品、開発?


「っ……!」


 まさか私の魔眼がこの国では護符袋と同レベル程度の扱いだったなんてー!

 私が思っていた以上に効果薄い……!


「……でも……やっぱり……」

「嫌悪感は拭えないって感じですか?」

「は、はい。すみません……」

「別に謝ることじゃありませんよ。ただ、そういうもんを必要としてる人まで、否定せんでください」

「は、はい。それは……はい」


 それはもちろんだ。

 正直私の魔眼がそこまで——おまじないレベルだということに驚いてしまった。

 それじゃあ護符袋に『異性に魅力的に見えるおまじない』の護符がはいったものを、人間の国に持っていったらどうなってしまうのだろう?

 とても大混乱になる未来しか見えない。


「そしてそういうものを今もっとも必要としているのがこのわっち」

「は、はい……それは、なんかもう……はい……」


 十分に……わかりましたので……?


「じゃあさっそく作ってみましょ」

「そ、そうですね」


 護符として効果を預ける紙……ではなく、布に魔法陣を魔力糸まりょくしで縫っていく。

『異性に魅力的に見えるおまじない』の魔法陣は、見本をもらっているのでミゲルさんのお屋敷でたくさん練習したから覚えているわ。

 しかし、なんであんなにたくさん依頼されたのか、今ようやく理解できた。

 お屋敷にいた頃はてっきり、皆さん気を遣って私に護符作りの依頼をくれたのだと思っていたけれど……シンプルに出会いのためだったのね。

 普通の護符は懐にしたためておくと、半日で効果が消えてしまう。

 しかし、護符袋に入れると一週間は効果が保てる。

 そう考えるとやっぱり護符袋ってすごいわよね。


「玉の輿……玉の輿……玉の輿……」

「…………」


 ただ、隣で手を合わせてそう祈られるのは結構プレッシャーだなぁ。

 た、玉の輿かぁ。

 これを持つ人が玉の輿に乗れますように、って、祈りながら縫った方がいいのかしら?

 それで効果って変わる?

 でも護符効果を付与するのも一種の魔法だというし、魔法は心で魔力を操作するともいう。

 本格的に魔法を使うとなれば、体の使い方も覚えないとダメ、とレイヴォル王国の王立学園で学んだけれど……私にはあまりにも魔法の才能がなかった。

 魔力はあるし、多少の付与魔法や簡単な身体強化はできたけれど。

 火を出したり、水を出したりといった普通の貴族なら誰でもできるような魔法を、使うことができないと言われたの。

 それは、今思うとレイヴォル王国が光の聖霊神や四大元素の聖霊神に加護を与えられた場所だったから……なのかもしれない。

 まあ、でも、闇の聖霊神に直接加護を与えられたからこの国にでは魔法が使えるのかと言えば——相変わらずそうではなかった。

 私は結局付与魔法や最弱の身体強化程度しか扱えないまま。

 それならせめて、お世話になっている人が幸せになれるよう、想いを込めることくらいできないだろうか。

 ジェーンさんはいつも私を助けてくれる。

 今も新しい提案をしてくれた。

 たとえそれが自分自身の幸せのためだとしても、私のように自分自身の幸せを心から祈れない者からするととてもすごいと思う。

 その熱量、本当にすごい。

 叶えばいいな。

 ジェーンさんの夢。願い。


「…………できました!」


 一時間ほどで刺繍が完成した。

 それをジェーンさんに手渡す。

 青い魔力糸で小さな花を縫って、糸の色を変えてそれが護符付与だとわからないようにしたのだ。


「おお、ええんと違います? 上出来ですわ」

「本当ですか? これ以上大きな花柄にすると、もっと時間が必要になってしまうんですけど……やっぱりこれだけだと地味ですよね」

「そうどすなぁ……デザインに関してはもっと凝ったものの方が人気が出そうどすなぁ。でもたった一人で量産するには、刺繍は向いてへんでっしゃろう? ある程度妥協して——いや、逆にこの布染めるのはどうでっしゃろ?」

「染める……?」


 刺繍用の布は基本的に針が通りやすいように、普通の布よりも強めの糸で織ってある。

 私のような趣味の延長で商売をしようとする者は、シルクのようなさらさらして柔らかな、失敗したら穴の空く一発アウト素材は難易度がとても高いのだ。

 そもそも刺繍の技術の起こりはレイヴォル王国の平民が、服のほつれをごまかすために始めたものだと教わった。

 それが商人から貴族に伝わり、貴族たちは豊富な財で大量の刺繍糸を作らせ、豪華な刺繍を行うようになった——と。

 特に百年ほど前は刺繍の全盛期時代といわれ、ドレスに立体になるほど大量の刺繍糸を使うのが流行っていたんだそうよ。

 おかげでその時代のドレスはかなり重く、今のようにダンスの時に翻ったりしなかったとか。

 ——と、嫌だわ、つい寝込んでいた頃に読んだ本の内容をつらつらと思い出してしまった。


「! ……あ……そうだ、立体にしたら……」

「え?」

「でも、染めるのも素敵そうですね」

「ん? ええ、そうね……ほら、この町だとレアの花染めっていうのがあってね」

「レアの花染め、ですか?」

「赤、青、黄色の三種類の花どす。それらを組み合わせて、さまざまな色で染めることができるんどすぇ。ほら、これとかレアの花染ですわ」

「わあ、すごく鮮やかな色が出るんですね」


 見せてもらったのはハンカチ。

 色とりどりの花の模様。

 これが染め物でできているなんて信じられない。

 そのくらい細かな色が出ている。


「で? コニッシュはんが言ってた立体って?」

「あ……実は故郷では……」

「ふんふん、昔刺繍糸を重ねまくって立体にしてた、と」

「そうなんです。でも、よく考えたら扇子に立体とかありえませんよね」

「そんなこともないかもしれまへんで。ほら、こう、開くと立体になる本とかあるじゃありまへん?」

「え? あー、子ども用の……」


 はた、とジェーンさんと二人、顔を見合わせたまま固まった。


「「それだ」」


 これはとんでもないものが生まれるかもしれない。

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