跋 聞いて 私の子どもたち

例のごとく空からどさどさ降る格好になってしまった。

「面目ない、演算違いだ。」サンクトゥスが恐縮してる。

「もちょっと穏やかに着地する予定だった。」

空は高く澄んで陽光が降り注ぐ。平和な草原。

「あーっ帰ってきたー」

アルドとヴァルヲが大きく伸びをした。

「ふぃー、」「ふぇぇ」「…。」キリエの力が抜けたらしいネズたちは、くたりくたりと草原に寝落ちしていく。

「よしよし、みんなよく頑張ったな。」

キリエがひょいひょいと3人を拾って、両の肩と背中に乗せていく。

俯いた鴇が、しくしく泣いてる。クレヴィットがそれを見てる。

「クレヴィットの手、ひとつになっちゃった…。」

「うん。いいんだ。」

鴇がしくしく泣いてる。

「クレヴィットの目もひとつになっちゃった…。」

「うん。いいんだ。」

鴇が普通に立って話してる。泣いてる、それさえ、嬉しい。

「ひどい目に合わせてごめんね。鴇。」

背が伸びてしまったクレヴィットは、鴇の顔を正面で見たくてしゃがんで膝を付いた。

「ごめんね、鴇。」

泣き止まない鴇に何度も謝る。

「まあ泣かせてやって。」

グローリアは鴇を抱き上げて、背なをポンポン叩く。

「泣きたいから泣いてるの。気が済んだら泣き止むから。グローリアはね、ものすごくタフなのよ。」グローリアが笑う。それより、と

「…治しきれなくってごめんなさい。戻ったらもう一度やってみるわ。」

ああ、いいんだ。本当に。

「俺、今、スゴく満足してる。だからこの姿のままでいい。」

そう?と鴇を抱くグローリア。

「…状況に合わせて変化したり成長する義手ならすぐ造れるが。」とサンクトゥス。クレヴィットは笑ったが、ふと、

「サンクトゥス…口輪て造れる…?」

「造れる。…どうした?」

「ううん、なんでもない。」

そう、それはまたそのときのことなんだろう。

しかし、なにか思い付いたサンクトゥスが

「クレヴィット、ちょっと腕貸して、」

そして何かした後、

「ちょっと振ってみ?」

言われた通り素直に腕を振る。

「うわ!すごい、」

「盾(シールド)だ。これでもっと護れる。」

「…格好いい。」

たたたっと走ってきたのは白群。ジャンプして、

「それっ!」ふわりとクレヴィットに水衣を翔る。

「お?初めて造ったにしては、上出来だ、白群。」サンクトゥスが誉める。

「うわあ。すごい。ぴったりだ。」

「えへへっ。…おまけっ!」白群は共布のバンダナでクレヴィットの失った目の跡を包んだ。

「やがて輝く白い鱗が全身覆うその時まで、その水衣が君を守るよ。」

キリエが少し目を細めてる。

クレヴィットはキリエを見つめた。

「どうした…?」

「キ格好いいなあ、て思って…」

キリエが微笑んだ。

「俺も格好良くなりたいな…。」

「なるさ。」

「えっ…なれるかな。」

「もちろん。君は私を越えていくよ。」

「ほんとに?」

キリエが大きく頷く。

「君は立派なジャブダルのオスだ。」

嬉しい。クレヴィットは無性に嬉しかった。

「キリエ、俺、やることいっぱいある、まずあわいのみんなに伝えるんだ。考える。を伝える。それから、…」夢中で話し続けるクレヴィットとネズたちを背負ったまま、ずっと頷いてるキリエ。ふたりがゆっくり歩いてて、その後に鴇を抱っこしてるグローリア。

「あわいが、外界の汚染に影響されてるのかもしれない。戻ったらすぐ調べるよ。」

「はい!」

相談しながら最後に続く、碧のふたり。草原を越えて森へと向かうジャブダルたち。自らのもうひとつの楽園に戻るために。


「あー…。」見送るアルドとダルニスとヴァルヲ。

「あ?」

ジャブダルの力が抜けて行く。見えてる訳ではないけど、気持ち良く、とても気持ち良く空に昇っていってしまうのがわかる。昇華だろう。

「うー…やっぱこれだろっ?」

アルドがたっと前にでた。

「おーーーい!」

「…ああ、それだな。」

ダルニスも続いた。

「おーーーい!」

「おーーーい!」

実はヴァルヲも続いてた。

遠ざかるジャブダルたちが振り向く。

「おーーーい!また来いよおっ!」

「バルオキーはいいとこまだまだあるんだぞっ!」

「パンも山盛り焼いておくからなあっ。」

「来いよ!また来いよ!」

ジャブダルたちが手を振っている。笑ってるのもよくわかる。

空は明るくまろやかで、やさしげな風は淡く心地よく隅々まで撫で摩り、バルオキーは平和そのもの。




 聞いて 私の子どもたち

 ひとつがひとつ

 ひとつはふたつ

 ひとつはみっつ

 みっつがよっつ

 いつつはむっつ

 たとえいくつに

 なろうとも

 いくつはひとつ

 ひとつがいくつ

 聞いて 私の子どもたち

 ひとりにひとつ

 かならずひとつ

 在るべき処と

 あなたの名前

 ひとつはひとつ

 ひとつはいくつ

 いくつはひとつ

 可愛い可愛い子どもたち


 あなたに名前を

 授けましょう

 あなたの名前は…





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ジャブダル~出来損ないとなりそこないと偽物の涙~ 中川さとえ @tiara33

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