第三章 可憐なサーカス団、村に舞う。
「良かろう。」
村長は、アルドが連れてきたジャブダルの薄い色の小さな子たちに優しく言った。
「ようこそバルオキーへ。みんなよく来たね。居たいだけ居なさい。ゆっくり休むといい。」
フィーネがいたらよかったんだけど、と続けて
「誰かみんなの世話を焼いてくれそうなヒトを捜しておこう。」村長はそう締めくくり、そっとアルドを呼び寄せる。そして小声で、
「…で、そのなりそこないたちとは村人も襲わないのか?それならばまた話が別なのだが。」
しかし残念ながらそれはアルドにはわからない。
「ふうむ。とにかく子どもたちにはもしも唄が聴こえたら必ず大人と一緒に居るように、と言い聞かせておこう。」
それが村長の今のところの結論だ。
そういえば湿地に向かったダルニスはどうしただろう?アルドが思いを馳せてると、「アルド、アルド」とジャブダルのこたちがそわそわしてる。少し気分が落ち着いたらもう、初めてみる村というものが見たくてしょうがないらしい。
「…じゃあ、村のなか、ウロウロしてみるかい?」
このアルドの申し出に、ジャブダルの子たちが飛び上がって喜んだ。
わらわらきゃっきゃっと一団は、ひらひらひらひら村の中を隅々まで回遊する。
誇らしげに先陣を切るは、われらがヴァルヲ。
あれはなに?それはなに?
あれはひと。それは野菜。
あのしわしわのひとはなに?あのひとはなんでごつごつしてるの?みんな同じの ヒト なの?
あれはおばあさん、あっちはおじさん。みんなみんな、ヒトなの。
なんで、カタチばらばらなの?
えっ?それが ヒト だから。1人ずつみんなカタチがちがうのさ。へえっ!そうなんだ!そうなんだよ。
「まあまあ、アルド。楽しげね。」
「やあ、こんにちは。」
「随分可愛らしいこたち。たくさん連れて。こんにちは。」
こんにちは?こんにちは?
こんにちは。わけはわかってないようだけど、みんなうまく言えた。
「ちょうどパンを焼いたとこなの、ひとつあげましょうね。おいしいわよ。」
村人のおばさんから焼きたてパンをもらう。
で、ここでちょっと一大事。このふかふかした温かいものは何でしょう。
顔をくっ付けあってクンクンしている。これは なに?なに?なに?
「ハジメテの匂い」「…生きてる?」「生きてない、多分。」「……、」
食べるんだよ。
!食べる!!!!
そうヒトの食べ物のひとつ。焼きたてパン さ。
食べる?食べる?食べる!
ひとりがかぷりとかじりつく。!おお。柔らかい。
あっ千切れる。おお!
おお!たぺる!たべる!
後は一心不乱に食べはじめ、焼きたてパンはあっという間になくなった。
「あら。」
「んー、すごく気に入ったみたいです。」笑って見せるしかないアルド。
「……次はもっともっとたくさん焼くわねっ。」
お願いします。
「アルド、アルド、」
うん?次はなに?
「……。」
銀鼠がおそるおそる指差しているのはゆらめく光。
「ああ、あれはプラズマ」
「ぷらずま。」
「ヒトが生活するためのエネルギー源なんだ。」
ジャブダルたちの様子が妙だ。
「どうしたの?」
キトキトと顔を見合わせる彼女たちのなか、口を開いたのは碧の白群。
「…あれ、ユガンでるよ。」
え?なん…て?
「歪んでる。」「歪んでる。」「ユガンでる。」
?…歪んでるの?
ジャブダルのこたちは頷く。
「ゆがんでる、かなあ?」アルドにはわからない。
歪んでる。ぐにゃりと廻りが歪まってる。
深刻そうに話してくれるが、やはりアルドにはぴんともこない。
「あっちにもあった。」
「あった。違う色のやつ。」
「あっちのも歪んでる。」
「歪んでた。ひどくゆがんでる。」
そうなのか。全然わからないなあ。
「ヒトは それでダイジョウブ なの…?」
どうなんだろう?
ダイジョウブ なんだろうか、ダイジョウブじゃないんだろうか。
「ヒト、キモチ悪くならないのか…。」
「ジャブダルたちには、ちょっとキモチ悪い。」
「うん、ちょっと。」
お?戻って休もうか?
「ううん、ダイジョブ、そんなひどくはない。」
「そう。ダイジョウブ。」
そうかい?ならいいけど。無理しないでね。
「うん、」
ジャブダルのこたちはくるくると廻るような仕草をする。
「ぐるぐるぐる、」
「ぐるぐるぐる、」
ほら、ほら、と両腕を伸ばし、ぶーんのポーズで
「ゆがんだまんま廻ってるよ、」「廻る廻る廻る。」
「捻れる捻れる捻れる。」
「ぐるぐるぐる、ぐるぐる」
んー、なんのこと言ってるの?
「この回り。この光のこの周り、水の無い この…」
「なんだっけ?たぶん?」
「多分、大気。」
「これがきっと大気というもの。」「ジャブダルにはあんまりないもの。」
「ぐるぐるぐる、歪んで廻る」「廻る廻る捻れるよ、」
ダイジョウブといいながら、随分気になるらしい。
みんなずっとぐるぐる廻りを止めようとしない。そろそろ日も落ちてきそうだし、ぼちぼち連れて帰ろうか。さあ、帰ろうとアルドが言いかけたちょうどその時だった。
鴇が急に ぐるぐる廻りを止めて背筋を伸ばした、と同時に小さく叫んだ。
「U…f…!」
そしてくるりと踵を返すと、ものすごいスピードで発進していった。それは、まるで見えない水の無い滝を、より激しく駆け昇る魚のように、泳ぐとしか言い表せない動き。
「鴇…!?」
茫然とするアルドを置いて
ジャブダルのこたちは次々鴇の後に続いていく。
「どうした?みんな!」
「アニュスデイの唄!」
くねりながらひとりが答えてくれた。
「誰かが、いま、唄ってる!」
U…mm m……f…o ooo o …m…
「あっちだ!」
これは大変。
いくよヴァルヲ。大急ぎ。
アルドとヴァルヲは、次々発進していくひらひらたちを懸命に追いかけた。
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