第56話 全盛期のヒナ

 目を開けると、シズネのお墓が転がっていた。

 地上と上空には周囲を取り囲むように、魔法少女が何人もこちらの動きをうかがっている。


「ありがとう、シズネ」


 どれだけピンチな状況だっていい。だって復活できたんだから。

 今はユキミに会うことだけを考えるんだ。

 それで、ごめんって謝りたい。私がどれだけユキミに迷惑をかけていたのか、どれだけ寂しい思いをさせたのか、それにどれだけ私が自分のやったことからにげていたのか。

 そういうのをしっかりと、謝りたい。


 だから今は、全力で戦うんだ!


「スキン変更! 九九番」


 私の服装が切り替わる。

 さっきまで着ていたネコをモチーフにした衣装から、王道の魔法少女の衣装へと。


「この服も久しぶりだよね」


 部活動時代、ガチ勢として全力で戦っていた時に着ていた衣装で、チートをして部活を辞めたあの日から、使わなくなった衣装。

 服を変えるだけで強くなるなんてことはないけど、今は少しでも全盛期だった頃に近づきたい。あの時以上に強くなりたい!


「サポートシステムセット。カスタム九九番!」

「サポートシステム起動します」


 ステッキから流れてくる無機質な声を聞いて気合を入れる。

 これであの時と全部同じだ。

 もう戻らないと思っていた頃の、私と。


「さあ、暴れるよ!」


 堰を切ったように全方位の魔法少女が攻撃を開始する。

 マナの回復が終わって、確実に私を倒し切れると読んでの攻撃だ。


「右後方二十メートル、左四十メートル、上空十メートルから攻撃音」

「オッケー!」


 ステッキが教えてくれた攻撃に加えて、正面にいる三人の魔法少女の攻撃すべてを紙一重で回避する。

 そしてシズネのお墓から、取れるだけのアイテムをすべて抜き取った。


「シズネも嬉しいことしてくれるじゃん! 【散弾サプレッション】セット!」


 シズネの戦闘スタイルだと、使わない【散弾サプレッション】の魔法が入っていた。たぶん、私のお墓から持ってきてくれてたんだね。

 こうなるかもしれないと思って。


 なら、存分に使わせてもらうよ!


「さあ、覚悟しろ!」


◆◆◆◆◆


 倒された後に転送された控室は、なんだか質素な部屋だった。

 四角い何もない箱だけの部屋に、モニタがあるだけだ。


 そのモニタにヒナが映し出されたのを見て、ホッと胸をなでおろす。

 ちゃんと復活できていた。ヒナのお願いをかなえてあげられた。

 それだけで、後はヒナならなんとかできるっていう安心感がある。


『ユキミちゃん、ヒナ復活したよ』

『ええ、見てたわよ。ありがとうシズネさん』


 そしてモニタに映し出されたヒナの衣装が変わり、サポートシステムという初めて聞く言葉が飛び出してきた。


「サポートシステム?」

「サポートシステムはその名の通り戦闘をサポートするシステムですよ、マスター! 私がよく敵の接近をお伝えしたりしているのも、この機能の一環です!」


 確かに敵の足音や攻撃を知らせてくれることがある。


「でも、そんな便利な機能、どうしてみんな普段から使わないの?」


 戦っているときに、ヒナがこの機能を使っているところを見たことがなかった。


「基本的にプレイヤーに伝わっている情報を、再警告しているだけなので、慣れてくると必要ないんですよ。例えばマスターに届いているけど気づいていない音は報告できますが、マスターまで届いていない音は報告できないんです」

「つまり、慣れてきたり上手になってくるほど必要のない機能ってこと?」

「その通りです!」


 でも、ならどうしてそんな機能を、今さらヒナが使ってるんだろう?


『ねえユキミちゃん。どうしてヒナはサポートシステムを使ってるの?』

『あれがヒナの一番戦いやすい戦闘スタイルなのよ。シズネさんはヒナがなんで上手いプレイヤーになれたのかわかる?』


 ヒナが上手い理由……ゲームをいっぱいやってるからってだけじゃない、何かがそこにはあるんだよね?


『接近戦が上手だから?』

『ふふ、惜しいわね。ヒナが強いのはその判断スピードの速さにあるの。戦闘中、どこに逃げる、どこを狙う、誰を倒す。そんな判断をする機会はとてつもなく多いわ』


 確かに私でも戦っているときには、色々なことを考えている。

 ヒナやユキミちゃんは、きっともっと多くのことを考えていると思う。


『じゃあその考える手助けのためにサポートシステムを使ってるってわけ?』

『ええ。ヒナの判断速度なら全方位数十人に囲まれても、その情報を的確に判断できる。ただ、それだけの音を聞き分けるのは難しいのよ』

『そっか、サポートシステムを使えば、聞き逃した音も判断材料にできるんだ』

『そういうこと』


 自分の目だけじゃ足りない。自分の耳だけじゃ足りない。だから助けてもらって、いつも以上の力をだしているんだ。


『じゃあさ、ユキミちゃんはやらないの? みんなサポートシステムを使った方が、強くなるんじゃない?』

『それは、実際に聞いた方がいいかもね。ヒナ、聞こえてるでしょ。そのまま戦っていていいから、通信だけつなげて頂戴』


 すると、モニターにヒナの戦っている音が聞こえてきた。


『後方二名、五時、七時、左上空、右、二十、四十五、百五十、十メートルから攻撃音。三十メートル前方足音及びカードセット』


 平坦な声で淡々と話し続けるステッキの声が聞こえてきた。


『うわ……なにこれ?』

『ヒナのサポートシステムよ。拾ってくる音の種類や半径を設定できるんだけど、ヒナはそれを最大値で設定してるの。こんなの普通わけわからなくなるでしょ?』


 うん、混乱するだけで邪魔だと思う。


『普通にサポートシステムを使っただけだと、初心者以外には役に立たない。でも、ヒナほどのカスタムで扱いきれる人はいない。その結果、あれはあの子だけの戦闘スタイルになったのよ』


 ヒナだけの戦闘スタイル。

 それなら、勝てるかもしれない。

 そんな思いがどんどん強くなっていく。


「頑張って……」


 モニタに映るヒナへと、そんな言葉を投げかけていた。

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