第55話 ヒナの時間
ダウンプレイヤーの待機場所で、モニターに映し出されたシズネのことをぼおっと眺めていた。
私のソウルリングをもって、生き延びようとユキミとの合流地点へと向かっているシズネを見ながら、ポツリと思っていた言葉が漏れ出てくる。
「私、生き返っても戦えないよ……」
ユキミがプロになろうとしてる。それは、私と部活動で一緒にゲームをしているときからそうで、今でもそうなんだと勝手に思っていた。
私がいなくなっても、きっと楽しい毎日を送っていて、今も変わらずプロを目指して頑張っていると思っていた。
でも、実際はそんなことなかったんだ……。
ユキミが夢をあきらめるぐらい、困らせちゃったんだ。
「そりゃそうだよね。相方が急にいなくなったらさ」
今まではずっと、私が起こした問題の重大さを見ないようにしてきた。
前の学校の友達は、全部連絡が取れないようにしたし、誰とも会わないように遠くの街まで引っ越して、あたらしい生活を始めようとしてきた。
これが誰にも迷惑をかけない、一番いい方法だと思っていたけど、実際はただ私が逃げてただけなんだ……。
「ユキミだって怒ってるよね。こんなどうしようもない相方でさ」
モニターに視線を移すと、シズネがユキミと合流して倒されそうになっている。
二人とも限界だ。
このまま終わったら、ユキミとは顔を合わせず今日は終わろう。
それで、またいつもの毎日に戻っていける。
そんなことを考えていると、小さな通信音が入ってきた。
『私は……』
◆◆◆◆◆
『私は……ヒナと楽しくゲームがしたかっただけ』
小さなユキミちゃんの声が聞こえてきた。
背後からは魔法少女たちの攻撃が、絶え間なく襲ってくる。けど今はそれどころじゃない。戦いよりも、ユキミちゃんの言葉を聞きたかった。
『ヒナが部活を辞めて、一人でゲームをプレイするようになると、ゲームが全然楽しくなくなったの。勝っても負けても楽しくない。ゲームを続ける気持ちもなくなったわ』
『だからプロを目指さなくなったの?』
『ええ。そんな時今回の試合の話を聞いたのよ。これだけ大切な試合なら、ヒナがもう一度私とパーティを組んでくれるかもしれないって……』
ユキミちゃんの思惑通り、ヒナはユキミちゃんのことを思ってこの試合で戦うことを決めてくれたんだ。
『でも、わざわざ嘘なんてつかなくてもよかったんじゃない?』
『そうかもね。まさかヒナがこんなに、楽しそうにゲームをしているなんて思わなかったわ。昔のヒナならお遊びの試合に私が誘っても、きっと相手になんてしてくれなかったもの』
昔のヒナは勝つためにゲームをしていた。私は当時のヒナを知らないけど、本気でヒナに戦ってもらおうと思うと、これくらいの舞台を用意しないといけなかったんだ。
でも――。
『今ならきっと、遊ぼうって誘えば一緒にゲームをしてくれるはずだよ』
今のヒナは昔のヒナとは違う。私にゲームの楽しみ方を教えてくれて、一緒に遊んでくれる。わざわざ嘘なんてつかなくっても、いいはずなんだ。
『そうだよね、ヒナ?』
私の呼びかけに、はっきりした声が返ってくる。
きっとそう答えてくれると思っていた。ヒナなら。
『うん、もちろん!』
『ッ!? これは個別設定だって……』
ユキミちゃんが驚いたような声を上げた。
私とユキミちゃんとの専用会話。それは嘘だった。
『ごめんね。まあ、おあいこってことで』
それにウジウジしていたユキミちゃんに、魔法弾をぶつけるというのもなしにする。だから、これくらいは目をつむってもらおう。
『ゲームのバグを利用した音声操作。ユキミちゃんなら知ってるんじゃない?』
ここへ来る途中、ユラちゃんに教えてもらったとっておきだ。
本来音声通話をするときは、個別設定になっていたら視界にその表示がされることになっている。
ただ、相手との通話中に会話を個別からパーティメンバーへ切り替えることで、個別設定という表時を出したまま、パーティ通話に切り替えられるバグがあるんだ!
パルちゃんは嫌がってたけど、これしか方法がなかったんだからしかたないよね。
『音声表示の切り替えバグか。まったく、初心者だからって油断してたわ……』
『ねえユキミ。私、ユキミにちゃんと伝えたいことがあるの』
その言葉は少し前に、戦う理由をなくして、寂しくお墓へと姿を変えたヒナとは違っていた。いつもの明るく力強いヒナだった。
『そうね。というか私だけ話したっていうのは割に合わないわ』
『うん、でもちゃん会って言いたい。通信じゃなく顔を見て! だからお願い。ユキミ、シズネ! 私のこと生き返らせて!』
『もちろん、そのつもり!』
私の声とユキミちゃんの声が重なった。
やるべきことは決まってる。ヒナのソウルリングはここにあるんだ。このままでなんか終わらせない。
「パルちゃん! ヒナの復活地点を探すよ! サポートして!」
「了解ですよマスター!」
「よーし、いくよ! 【
真上に向かって、何本もの矢を放つ。適当に撃ちだしただけの当たりっこない矢だけど問題ない。
撃ちだした矢が、落下してくることで当たるかもしれない。
そんな思いで追ってきている魔法少女たちは速度を緩め警戒する。
そして私は【
「パルちゃん! 復活地点の光はない?」
全方位数百メートルが見えるほどの高度。狙い撃ちにされかねない危険地帯で、ヒナの復活地点を探す。
「マスター見つけました! 南西に100メートルほどです!」
「ナイスパルちゃん! 今度何かお礼するね!」
追いかけてくる魔法少女たちには目もくれず、まっすぐ光に向かって飛び出した。
「復活狙いよ! みんな止めて!」
「行かせるな!」
周りから魔法少女たちの攻撃が飛んでくる。
紙一重で回避しながら、復活地点である魔法陣に手をかざした。
復活中は移動ができず無防備になる。でもそれで構わない!
手の平からマナの光が魔法陣へと集まっていく。
そこへ、周りの魔法少女たちからの集中砲火が襲い掛かってきた。
「後は、任せたからね!!」
大量の魔法弾が降り注ぐ。でも問題ない。
私の仕事はこれで終わりだ。
「ここから先は、ヒナの時間だよ!」
その言葉を最後に、私の視界は真っ赤になり体力ゲージはなくなっていった。
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