第45話 結託

「いぇーい! 大勝利!!」


 飛び跳ねながら喜ぶヒナ。私も初めての戦法がうまく決まって同じように飛び跳ねながらヒナとハイタッチをしていた。


「うまく決まったわね。アイテムも十分すぎるぐらいに集まったし、上々の成果じゃないかしら」

「ユキミちゃんに教えてもらったおかげだね」

「うんうん。ユキミは教えるの上手だしね。新入部員に戦い方を教えるのもやってたし」


 確かに、ユキミちゃんならそういうの向いてる気がする。


「べ、別に特別うまいわけじゃないわよ。シズネさんの飲み込みがよかったの」

「おぉー、照れてる照れてる」

「そんなんじゃないってば!」


 そんなこんなで、私たちは無事連戦を生き延びたのだった。


「じゃあこの調子で今度は、ユイを倒しにいこっか!」

「ユラちゃんのお姉さんだよね? あと部長さん」


 ユラちゃんのお願いはユイさんを正面から倒すこと。

 だから今回の戦いみたいに、私が不意打ちで倒すというのは避けないといけない。


「確かにそれもいい考えだけど、これを見てから決めましょう」


 これ?

 私がそんな疑問を口にしようとしたとき、パルちゃんが飛び出してきた。


「ワイドサーチの時間です!」


 そしてマップが表示される。

 一度目のワイドサーチの頃と比べると、かなり小さくなったマップに私たちを含めた全プレイヤーの場所が表示されていた。

 ただ、そのマップにはあきらかにおかしな部分があった。


「これって、どういうこと?」


 マップには赤い点でプレイヤーの場所が表示されている。

 私たち三人がいるところには、三つの赤点が表示されているけど、問題はマップ中央付近にある赤点だ。


「赤点が一カ所に集まってるよ」


 すでに十個以上の赤点が集まっていて、周囲の赤点もそこに向かっているようだった。

「なんだろ? 戦闘中なのかな? 漁夫を狙って周りのパーティも集まってるとか?」

「確かにその可能性はゼロじゃないわ。ただ、それだとあまりにも赤点が近すぎるわね」


 漁夫の利を狙っていたり、複数パーティが戦闘している場合、赤点が一カ所に集まっていたとしても、ある程度の距離は保っているはずだ。

 今マップに映っている赤点は、まるで集まって話をしているみたいな至近距離に集合していた。


「ってことはどういうこと?」

「まだ確定じゃないけど、手を組んだ。というのが一番現実的な可能性ね」


 ユキミちゃんの言葉に背中に冷たい感覚が走った。


「手を組んだって協力してるってことだよね? どうして?」

「私に負けたくなかったってところでしょ」


 そういったのはヒナだった。

 どこかから、ヒナが戦場にいることが伝わったんだ。

 大切な試合を部外者であるヒナに活躍させたくない。そんな思いでヒナを倒そうと結託したってこと?


「でもでも、プレイヤー同士が協力するのはダメって、ヒナ言ってなかったっけ?」

「チーミングのことだよね」


 そうだ、チーミング! ほかのプレイヤーと協力するのは、ゲームが成り立たなくなるから禁止されてるって言ってたんだ!


「マスター、今回の試合はカスタム対戦です。オンラインで不特定多数のプレイヤーと遊んでいるわけではないので、こちらから咎めることはできないんですよ」


 パルちゃんの説明にヒナもうなずいた。


「そういうこと。私たちだってユラに協力してもらったしね」


 そうだ。チーミングがダメなんだったら、ユラちゃんに装備をもらったりするのもダメなんだ。

 でも、それじゃあ私たち三人で全員を倒さないといけないってことだよね……。


 ワイドサーチの時間が終わり、マップからプレイヤーの赤点が消えていった。

 すると、遠くの方から私たちを呼ぶ声が聞こえてくる。


「みなさーん! 大変大変! 大変であります~!」


 白い旗を振りながら空を飛ぶユラちゃんだった。

 ユラちゃんは慌てたように着地すると、その勢いのまま私たちに報告を始める。


「部活のみんなが手を組んで、ヒナさんを倒そうとしてます!!」


 その言葉はユキミちゃんの予想を裏付けるものだった。


「やっぱり……これはさすがに厳しいわね」

「まったく、そんなに私ってば嫌われちゃってたのか」


 そういうヒナは少し俯いているように見えた。


「あの……約束、なんとかなりそうでしょうか?」


 不安気なユラちゃん。

 確かにユイさんを倒すという約束を果たすためには、このゲームに残っているプレイヤー全員を相手にしないといけなくなったんだ。


「まあやってみるしかないよ」


 ヒナはそんな風に言いながら、ユラちゃんの肩に手を置いた。

 確かに、私たちの目的はこのゲームで勝つことなんだ。

 ユイさんを倒すっていうことを抜きにしたって、戦う意外に道はない。


 バトルロワイヤルのゲームは、最後の一パーティにならないと勝てないんだから、相手が協力していたとしても、戦わなきゃ!


「なら私たちの行動は決まりね。時間をかければかけるほど、向こうは準備する時間ができるんだし今から殴り込みに行きましょうか」


 ユキミちゃんの言葉に、ヒナの瞳がキラリと輝いた。


「さっすがユキミ! 部活の全員を相手にするなんて、なんだか燃えてくるね。シズネも思いっきり暴れちゃおう!」

「私隠れるのが専門なんだけど……っていうか、ユイさんは正々堂々と倒すって話だけど、私はどうしよう?」


 やっぱり、私もヒナみたいに戦わないといけないのかな?


「それならシズネさんはユイさんじゃなく、周りの取り巻きを狙ってもらうわね」


 確かに協力しているっていうのなら、狙う相手はいくらでもいるんだ。

 ユイさん以外の人をいつもの戦い方で狙っていけばいい!


「なら、みなさんよろしくお願いするであります! 私もできる限り支援させてもらいますので!」


 そして、飛び立っていくユラちゃんを見送りながら私たちも歩き始めるのだった。

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