第42話 ユキミの戦闘訓練

「じゃあまずは【狙撃アーチャー】から行きましょうか」


 ユラちゃんからもらったカードを持って、ユキミちゃんとの練習が始まった。

 ちなみにヒナは周囲の警戒に行ったので、ここには私たち二人だけだ。


「ヒナが使ってるところなら見たことあるよ! 苦手だ~って言いながら使ってたけどさ」

「ふふ、ヒナらしいわね。こういう遠距離攻撃は、敵の移動速度と弾速を考慮して撃たないといけないの」

「偏差撃ちってやつだよね」


 チーターと戦うときに、その突破口になったのがこの偏差撃ちだっただけに、しっかりと覚えている。 


「そうよ。【狙撃アーチャー】は遠くの敵を倒すときに使う武器だから、特に偏差を意識しないといけないの。魔法をセットしてみて」


 ステッキに【狙撃アーチャー】のカードをセットすると、大きな弓へと姿を変えた。


 ちなみに魔法カードを消費してしまうけど、ユラちゃんが持ってきてくれた枚数的に、一枚練習に使ってしまおうという話になっている。


「そのまま構えてみて」


 前に見たヒナを思い出しながら弓を構えると、魔法の矢が手元に現れた。

 そして、視界が狭くなりずっと先まで見えるようになる。


「その状態になると、遠くの敵が狙えるの。ズームされる距離は調整できるわよ。目に意識を集中してみて」


 ぐぐぐっと目に力を入れると、さらに遠くまで見えるようになり、力を抜くと手前に戻ってくる。


「ズーム倍率は6から12倍までよ。その状態は近くの視界がかなり制限されるから、注意してね。こんな感じで」


 ピトっと頭に何かがあたった。弓をおろして視界を元に戻すと、ユキミちゃんが目の前まで迫り、私の頭にポンとステッキを乗せていた。


「ぜ、全然気づかなかった……」

「実戦だと命取りだから、攻撃にはあまり時間をかけないようにね。じゃあ試しに使ってみましょう」

「いいの!?」


 攻撃をすれば、音や光で周りの敵が寄ってくるかもしれないのに……。


「ヒナもいるし大丈夫よ。それに試し打ちしておかないと、弾道がわからないでしょ」

「確かに……」


 そして、もう一度弓を構えると今度は遠くの丘に向かって攻撃してみる

 矢は山なりの軌道で飛んで行き、狙っていた場所の少し下に落ちてしまった。


「距離があるほど狙いよりも下に落ちるから覚えておいてね」


 そして四発攻撃をして、狙い通り矢が飛んだところで【狙撃アーチャー】の説明はおしまいだ。


「じゃあ次は【砲撃ルーインズ】ね」

「これも知ってるよ! これを連打してくる人たちと戦ったことがあって」

「変わった相手と戦ったのね。その時はどうやって攻略した?」

「確か、思いっきり敵に近づいて【砲撃ルーインズ】を撃てば自爆しちゃうような状況を作ったんだったかな」


 ヒナは上手に相手を倒したけど、私は相手の自爆覚悟の爆発に巻き込まれそうになったんだ。


「いい攻略ね。この魔法はチャージ中ほかの魔法への切り替えができないのよ。近づかれると、何もできないから気を付けて。あと、チャージ中は魔法がたまる音と光も出るから、要注意ね」

「隠れるのは得意だから大丈夫!」


 光と音が出たとしても、見つからない方法はいくつかある。

 そうやって上手に相手の不意をつけるように気を付けないと。


「ルーインズは地形を壊したり、複数の敵をまとめて倒せるときにすごく有効だから、相手の隙を見つけた時は【狙撃アーチャー】を使うか【砲撃ルーインズ

を使うか考えてみてね」


 試しに【砲撃ルーインズ】をセットすると、ステッキが少し大型のものに変形した。

 そして、ゆっくりと杖の先端にある丸い玉に光が宿っていく。

 これがたまるとチャージ完了ということらしい。


「あ、これでチャージ完了だね!」


 ピカッと強く輝くと、遠くの山へと【砲撃ルーインズ】を放った。

 すると、大きな球体が山へ向かってゆっくりと飛んで行き、着弾と同時に爆発した!


「見ての通り威力も範囲もバッチリよ。弾速が遅いことは覚えておいて」


 そして説明は最後の【乱射スキャッター】へと移っていった。


「これはさっき使ったから、大丈夫!」


 ヒナと【透明ハイド】からの奇襲をするときに使った魔法だけに、しっかりとその効果は覚えている。


「たくさんの魔法弾をばらまくって感じだよね」

「そうよ。一発一発の威力はそこまで高くないから、気を付けて。使い道は【砲撃ルーインズ】に似てるけど、チャージ時間がいらないっていうのが特徴かな」

「でも、攻撃中は移動できないよね? 杖がすごく大きくて重いからまともに動けなかったよ」

「うん、そこまでわかってるなら大丈夫ね。じゃあ実際に撃ってみましょうか」


 そして、ユキミちゃんの個別指導はさらに十分ほど続いていった。


◆◆◆◆◆


「じゃあこれで説明は終わり。後は実戦あるのみかな」

「ありがと、なんだか私すごく強くなった気がする!」


 戦い方がわかれば、どう動けばいいのかわかってくる。

 これは、せっかくだから今教えてもらったことを試してみたい!


 すると、見回り中のヒナから連絡が入った。


『敵パーティが来たよ! そっちにまっすぐ向かってる!』


「て、敵!?」

「落ち着いて。装備もあるし問題ないわ。それにむしろ誘い込んだのはこっちの方なんだから」


 誘い込んだ? そんな疑問をもった時にさっきまで試し打ちと言って、魔法を撃っていた理由がわかった。


 敵パーティが来るように仕向けてたんだ!


「シズネさんが入った状態での、連携を確認してみたかったの。相手はこっちに不意打ちをするつもりだろうけど、逆に私たちから攻め込んであげましょう! さあ、本当に強くなったか試してみなくちゃね!」


 そういってヒナに指示を出すユキミちゃん。

 その表情は、ヒナが敵陣へ突っ込んでいく時みたいな笑みが浮かんでいた。


 うん、やっぱりヒナの相方だ。

 残虐な感じがそっくりな気がする……。

 仲間で本当によかったよね。

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