第41話 シズネの得意武器

「これでこの辺りは探し終わったかな」


 ヒナの言葉に私もユキミちゃんも暗い顔をする。町の中を探索し終わった結果、なんのアイテムも見つけることができなかったからだ。

 ユキミちゃん曰く、誰かがアイテムを集めた後じゃないかということだった。


「正直これじゃあ、装備が少ないよね?」


 回復アイテムや攻撃魔法、どっちを見ても最後まで戦い抜くのは難しそうだった。


「じゃあやっぱり、どこかのパーティを全滅させて奪っちゃう?」


 なぜか嬉しそうなヒナの言葉に、ユキミちゃんは首を横に振った。


「それは最終手段にしたいかな。この時間からの戦闘は一パーティじゃ終わらない可能性の方が高いだろうし」


 ユキミちゃんの言葉にはっとして、マップを開く。

 今回のゲームはカスタムマッチということもあって、戦闘エリアの縮小がかなり早く設定されているんだった。


「もう半分ぐらいになってるね」


 確かに今から戦えば、ほかのパーティが漁夫の利を狙ってやってくる可能性は高そうだ。最初に出会った人たちから装備を奪えていれば、もう少し楽だったのかもしれないけど、ビルの下敷きになっちゃっただろうしね。


「どこかで戦闘中のパーティを狙うしかなさそうかな」


 ユキミちゃんがそう話をした時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「みなさ~ん! お待たせしたでありますよ!」


 声がした方に目を向けると、白い旗を振りながら空を飛ぶユラちゃんだった。

 ゆっくりと私たちの前に降り立ったユラちゃんは、すぐに大量の魔法カードと回復アイテム、それに特殊アイテム数種類を地面に広げていった。


「お約束通り、たくさん集めてきました! 好きなだけ使ってください!」

「わぁ、すごい」


 量や種類もそうだけど、なによりこの短い時間で集めてきたのがビックリだ。


「戦闘中のパーティを見つけて、成り行きを見守っていたら相打ちしてしまったので、持ち物を全部いただいたであります!」


 つまり、ユラちゃんも漁夫の利をしようと、タイミングを見計らっていたってことだ。 小さくてかわいいユラちゃんが、こういう非情な戦略を取っているというのが、このゲームの厳しさを物語っているみたいだった。


「これだけの装備があれば、最後まで戦えそうね」

「ありがとう、ユラちゃん」


 そしてユラちゃんは、ほかパーティの動向を探ると言って、すぐに飛び立ってしまった。

 ヒナとユキミちゃんがアイテムを確認すると、今の手持ちのアイテムを取り出して三人で平等に割り振っていく。


「体力とマナの回復は十分ね。そういえばシズネさんは、どんな魔法が得意なの?」

「得意な魔法か……」


 言われてみれば、あんまり考えてなかったかも。

 ヒナは相手に近づいて戦うから、【散弾サプレッション】や【ソード】が得意で、そこにオールラウンダーな【複射マルチシュート】も組み合わせて使ってたんだよね。


「シズネはまだ使ったことがない魔法もあるんだし、得意魔法は決まってないんじゃない?」

「うん、よく使うのは【複射マルチシュート】だけど、初心者向けだから使ってるだけで、得意ってほどじゃないもんね」


 初めてゲームをしたときや、その後ヒナと二人で遊んでいるときも基本的には【複射マルチシュート】を使っていた。

 中には一度も使ったことのないものだってあるくらいだ。


「なら、好きな戦い方はどう? ヒナみたいに突っ込むのが好きか、中距離で臨機応変に動くのが好きか、みたいな感じでしっくりくる動き方はある?」

「あ、それならあるよ!」


 私が好きな戦い方は決まってる。


「こっそり隠れて戦うのが好き!」


 人目を避けて見つからない場所を探したり、じっと息を潜めてチャンスが来るのを待っているのは、私の性格に合ってる気がする。


「アンブッシュね……それなら高火力の魔法を使えるようになった方がいいわ」

「あんぶっしゅ?」

「待ち伏せとか不意打ちとかって意味かな。まだシズネは隠れて逃げるだけだけど、そこから攻撃できれば、めちゃくちゃ強いんだよね」


 ヒナの説明を聞くと、確かに私の戦い方だった。

 うん、アンブッシュ! なんかかっこいい!

 魔法少女っぽくはないけどさ……。


「シズネさんはこのカードを使ってみて」


 そう言って手渡されたのは、【狙撃アーチャー】、【砲撃ルーインズ】、【乱射スキャッター】のカードだった。


「この三枚が私向けの魔法なの?」

「どれも高火力な魔法だからね。相手に攻撃を当てられれば、かなり有利になる魔法がその三枚なの」


乱射スキャッター】は、さっきビルで三人組の魔法少女と戦うときに使ったやつだよね。

 たしかに、相手が三人でも十分なぐらいの攻撃力があった気がする。


「というか、ヒナ。こういうのは最初に教えてあげなさいよ」

「え~、こんなの遊んでればわかるんだし、勉強しなくても大丈夫だって」

「最初に教えてあげれば、ゲームへの理解が早くなるでしょ」


 ぐぬぬぬぬ、と見つめ合う二人。

 あははは……教育方針で揉めるお父さんとお母さんってこんな感じなのかな?


「まったく……とりあえずヒナみたいにゲームに慣れてる人なら、慣れでなんとかなるけど、話を聞いてる感じシズネさんはそもそも、ゲームをあまりやらないんでしょ?」

「うん、『MKDマジカル・ナイト・ドリーミング』が初めてかな」

「なら、やっぱりある程度の知識は大切よ。さっきの三枚のカードについては、どこまで知ってる?」

「えっと、パルちゃんとヒナから基本的なことを教えてもらっただけだよ」


 すると、パルちゃんがどこからともなく現れた。


「基本的な魔法の性能だけで、有効な戦略などは説明していませんね~。あとは実際に使用したところは見てますが、自分で使ったことのある魔法は【乱射スキャッター

だけです!」

「おぉ、すごい。そんなことまで覚えてるんだね」

「ふふふ、マスターのことならなんでもお任せください! ゲームを始めた日時、被弾回数、命中率に勝率。もっと言えばスリーサイズまでバッチ――ぷぎゃ!」


 最後の方は、手で口を覆って黙らせた。


「そ、それならあまり時間はないけど、少しだけレクチャーしましょうか」

「わぁ、いいの!?」


 色々な魔法を使ってみたいと思っていたところだし、ちょうどいい!


「ユラちゃんから敵の情報が来るのを待っている間ね。もし、敵パーティと遭遇したら中止だけど」


 そしてユキミちゃんから、魔法のことを教えてもらうことになった。

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