第39話 ユラのお願い

 ユラちゃんの話をまとめるとこうだった。

 ヒナが部活動をやめた後、プロを目指す選抜チームに空きができてしまい、その代わりにユラちゃんの姉であるユイさんが選抜チームへと勧誘された。


「姉は頼まれると断れない性格で、周りの人に押し切られて入ってしまって……もしこの試合に勝ってしまえば、プロチームへ所属の話になってもおかしくありません。プロ志望じゃない姉をチームから引き離すためにも、正々堂々と正面からぐぅの音もでないぐらい打ち負かしてほしいであります!」


 力強く話すユラちゃん。

 ユイさんの性格については、よくわからないけど話はわかった。


「なるほど……まあいいわ。ここまでの話におかしなところはなさそうね」

「はい! すべて偽らざる事実であります!」


 ビシッと敬礼をするように話すユラちゃん。うん、なんだか見ていてかわいい。


「シズネさん、出てきていいわよ。危険はなさそうだし」


 ユキミちゃんに言われ、ゆっくりと壁から顔を出す。


「えっと、初めまして。シズネです」

「えぇ!? ユキミさん以外にもチームメイトがいたでありますか!?」


 驚くユラちゃんは、まじまじと私の顔や服装を観察していた。


「転校先で友達になったシズネだよ」


 ヒナの簡単な紹介に合わせて頭を下げると、ユラちゃんの瞳がキラリと輝く。


「ヒナさんのお友達ってことは、ものすごくゲームがお上手だったりするのでしょうか! もしや転校先の学校にあるゲーム部のエースとか!?」

「いやいやいや、私は普通に初心者だから!」

「でも、ヒナさんの友達なら何か、隠された才能がありそうであります! ほら変身とかしたりして!」


 へ、変身!?

 魔法少女だし、してるって言えばしてるのかな?


「シズネは本当に普通の初心者だよ。まあ光るものは持ってるけどね」

「おぉ、やっぱり!」

「いやいや、ないよそんなの! ユ、ユラちゃん!? そんな期待した目で見ないでって!」


 そして、そんな感じのあいさつが終わったところで、私たちは本題について話し始めるのだった。


「それにしても、ユイを倒してほしいか……どう思うユキミ?」

「難しいわね。私とヒナの連携も昔ほどの精度は出せないし」


 ユラちゃんのお姉ちゃんで部長を務めているユイさん。

 それを倒すのは、二人でも難しいという話だった。


「そんなに強いの? そのユイさんって人」


 私の疑問に答えてくれたのはユキミちゃんだ。


「部内の実力は上位ね。エンジョイ勢で練習時間も少なかったから、私やヒナほどじゃないけど、十分脅威よ」

「あれ? でもそれって二人なら勝てるんじゃないの?」

「彼女の厄介なところは統率力なの。チームを率いて戦う能力は私たち以上よ。それに今回は部内の選抜チームでパーティを組んでるだろうし、私たちだけでの突破は難しいわね」


 そっか、確かにユイさんだけじゃなくって、パーティメンバーも一緒に相手しないといけないんだ。


「できる限りの支援はするであります。なんとかしてもらえないでしょうか……」

「う~ん、やっぱり正々堂々と倒すってのは難しいかな」


 そういうヒナの視線が私に向けられていた。

 そっか。ユイさんには私の存在を知られていないから、不意打ちならって考えてるんだ。

 確かにそれならなんとかなりそうだけど、ぐぅの音もでないように倒してほしいっていうユラちゃんの想いには答えられない。


「私はヒナとシズネさんを巻き込んでるから、これ以上厄介事を二人に背負わしたくないんだけど、そっちはどう?」

「私はやってあげたいな。直接じゃないけど、こうなった原因は私がチームを抜けちゃったからだしね」


 確かにヒナからすれば、自分のせいでユイさんが選抜チームに入ってしまった以上、なんとかユラちゃんに協力したいと思う。


 私は、どうしたいんだろう?


 正直言ってよくわからない。ユイさんのこともユラちゃんのことも、まだ全然知らないのに、人助けなんて言われてもピンとこないよね。

 だから、ヒナがやりたいようにしてあげよう。

 きっとこの試合は、ユキミさんとチームを組んだのも、こうして誰かに助けを求められるのも全部、全部ひっくるめて、ヒナの戦いなんだから。


「ヒナがそうしたいなら私はいいよ。頑張ってちょっとぐらい役に立ってみせるね!」

「二人がそういうなら私もオッケーよ。どうせこの試合で勝つためには、倒さないといけない相手なんだし」


 そして私たち三人の意思は固まった。

 ユイさんを正々堂々と倒す!


「あ、ありがとうございますです!」


 ユラちゃんは何度も何度も、頭を下げていた。


◆◆◆◆◆


「では私はできるだけ物資を集めて、みなさんにお届けするでありますよ!」


 ユラちゃんはそういうと、意気揚々と飛び出していってしまう。

 定期的に私たちと接触して、物資や敵の情報を教えてくれるという話になったのだった。


 それにしても、正々堂々と戦うのか……。

 私って基本的に隠れながら戦ってばかりなのに、本当に大丈夫なのかな?

 それにヒナやユキミさんほどじゃないっていっても、相手はすごく上手な人みたいだし、足を引っ張っちゃいそうだよね。


「なに緊張してるのさ、シズネ」

「き、緊張なんてしてないわよ!」

「でも、なんか表情硬くない? ほらゲームはもっと楽しまなきゃね」


 言いながら私の頬をぐにぐにと揉み始めるヒナ。

 いや、っていうかうっとおしい!!


「あーもう! 大丈夫だってば!」

「うん、ちょっと柔らかくなったかな? できる限りのことはするけど、私たちは基本的に部外者だし気楽に行こうよ。ゲームは楽しいのが一番だしね!」

「そうだけど……なんだかみんな、すごく真面目にゲームしてるんだなぁと思って」


 私はみんなほど真剣にゲームと向き合ったことはない。

 それなのに、そんな私にユイさんをたおせるんだろうか?


「ゲームの楽しみ方は人それぞれよ。プロを目指すもよし。息抜きに遊ぶもよし。友達との交流に使ってもいい。自分のペースで遊べるのもゲームの良さだからね」

「そうそう! 私とシズネはライトユーザー! ユキミとか選抜チームの子たちはヘヴィユーザーってこと!」


 ユキミさんとヒナの言葉に納得しつつ、私たちは歩き始めることにした。


「とりあえず、装備集めを優先しましょう。ユラさんが持ってきてくれるとは言っても、ある程度はこちらで確保したいし」


 そして私たちはできるだけ戦闘は避けつつ、装備集めへと繰り出していった。

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