第38話 白旗の魔法少女

 戦闘エリアが収縮してきていることから、街の西側へ移動中の私たち。

 まだギリギリ最低限とはいえ、装備もある程度揃い始めていたそんな時だった。


「誰か来るわ!」


 ユキミちゃんの視線に合わせて空を見ると、かなり遠くに一人で飛行中の魔法少女の姿があった。

 豆粒ぐらい小さな敵を見つけるなんて……。


「えっと、ど、どうするの? 逃げるんだよね?」

「まずは建物の裏から相手を観察しましょう。あちらが私たちを発見しているのかで、対応は大きく変わるわ」

「やっほう! 敵だ敵だー!」


 冷静なユキミちゃんとは逆に、ヒナはハイテンションだった。

 でも言葉とは裏腹に、建物の影へと隠れるあたり、良いコンビなのかもしれない。


「えっと、見つかってなかったら逃げるの?」

「この場合は不意打ちで落とす方が安全ね。相手は一人みたいだし」

「こっちの装備がそろってないとはいえ、不意打ちなら被害なしで相手を倒せるだろうしね」


 たしかに、下手に逃げて見つかるよりは初撃で落とした方が安全だ。

 そして魔法少女がキョロキョロと辺りを見まわしながら近づいてくる。

 その手にはなぜか、白い旗が握られていた。


「どうするユキミ? 白い旗は降参って意味だよね?」

「そうね。私たちが油断して出てきたところで隠れていた仲間が飛び出して、というのも考えられるし、もう少し様子見かしら」


 静かに空を飛ぶ相手を見つめていると、今度は大きな声で辺りに話始めた。


「ユ、ユキミさ~ん、それとたぶんヒナさ~ん! この辺りにいないですか~?」


 白旗の魔法少女は、どうやらユキミちゃんとヒナに用があるらしい。


「二人のこと探してるみたいだよ?」


 しばらく悩んでいる二人だったが、結局ヒナが話をしにいくことになった。


「何かあったら全力で逃げて。撤退のカバーなら私とシズネさんでやるから」

「うん、了解! 念のため魔法カードは置いていくよ。【複射マルチシュート】と【飛行フライ】はセットしてと……」


 そんなことを言いながら、ヒナのアイテムを受け取っていく。

 そして【単射シングルシュート】のカードをもって飛び出していった。

 とはいえ、ヒナが向かったのは白旗の魔法少女の場所ではなく、その進行方向のかなり先の場所だ。


「どうして直接あの子のところにいかないの?」

「ヒナがここから【飛行フライ】で飛び立ったら、仲間の私たちがここにいるってバレちゃうでしょ?」

「あ、なるほど」


 罠だった時、私たちの居場所がバレないようにするための配慮だったんだ。


「じゃあ【単射シングルシュート】のカードを持って行ったのは?」

「それはちょっと説明が難しいわね。例えばヒナがあの魔法少女と話をして、信頼できる! ってなったときに、ここにあの子を連れてきたらどう思う?」


 内気な私としては、知らない子が増えるのはあまり嬉しくないんだけど、そういうことじゃないよね。


「警戒するかな? 突然攻撃されて倒されたりしそうだし」

「その通り。だからこういう交渉事をするような場合は、単純に攻撃力が低い【単射シングルシュート】のカードを相手にセットしてもらうのよ」


 ヒナと一緒にやってきた相手の魔法少女が、私たちをだまして攻撃してきたとしても【単射シングルシュート】の攻撃なら倒される前に相手を倒しきれる。

 確かに、言われてみれば安全な気がする。


「ほら、ヒナが接触したわ」


 遠くの方でヒナが魔法少女の子と話をしている。遠すぎて豆粒ぐらいにしか見えないから、どんな様子なのかまではわからないけど、とりあえず戦闘にはなっていないみたいだった。


「大丈夫かな?」

「少なくともヒナなら一対一で負けることはないわ。ほかの魔法少女が手出しするようなら、私たちも加勢しましょう」


 そして、見守ること五分。

 ヒナと女の子が私たちの方に向かって飛んできた。


「話がまとまったみたいね。念のためシズネさんは隠れていて。もしもの時は逃げちゃってオッケーだから」


 タタタッと近くの物陰へと隠れて小さくなる。

 すると、ヒナと白旗を持った魔法少女が二人で戻ってきた。


 私よりも二回りほど小さな体に、羽飾りのついたヘルメット。服装は魔法少女というよりは軍服に近いもので、ファンタジーとミリタリーを合わせて割ったような、不思議な見た目だった。


 おぉ、ちびっ子だ……。たぶん一年生だよね?

 もともと小さいのに、今は白い大きな旗を持っていることもあって、より一層小ささが際立っているように見える。

 ユキミちゃんやヒナがだまし討ちを警戒していたけど、今目の前にいるあの子を見ると、そんな警戒心はどこかへ飛んでいっちゃいそうだった。


「はい、到着。わかってたと思うけど、チームメンバーはユキミだよ」

「あなたは……ユラさんね」


 私とユキミちゃんの話を聞いてなかったのに、ヒナがもともと二人パーティみたいに話を合わせてる!

 それにユキミちゃんも自然と私が、あの女の子の視界に入らないような立ち位置にいるし、これがバトロワゲームに慣れている二人の対応力なんだ……。


「は、はい! ユキミ先輩に覚えていてもらえるなんて、光栄であります!」

「じゃあさっき私に教えてくれた話を、今度はユキミにしてくれる?」

「はいであります! 実は私の姉のことでお願いがあるんですが」

「姉っていうと、部長のユイね」

「はい、お二人へのお願いというのはほかでもありません」



「この試合に参加している姉のチームを、正面から打ち倒してほしいんであります!!」


 その言葉を聞いて、ヒナはなんだかうれしそうに、そしてユキミちゃんは困ったように頭を抱えていた。

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