第37話 戦う決意
「ここまでくれば大丈夫よ」
そう言ってユキミちゃんが下ろしてくれたのは、街の南端にある大きな建物の屋上だった。
見晴らしが良く、周囲に高い建物は少ない。奇襲の心配はなさそうだ。
「とりあえず、事情を説明してくれるんでしょ?」
ヒナが開口一番、ユキミちゃんへと切り出した。
どうしてヒナの昔の部活仲間がいたのか。どうしてよりにもよってヒナを、この戦いに巻き込んだのか。
「この試合は、プロチームの偉い人も参戦してるの」
「プロチーム? どうしてそんな人が?」
「新人のスカウト。うちだけじゃなく有名な学校を順番に周って、選手を勧誘してるんだって。選ばれた人にはその人のチームへの加入も約束されてる」
そういえば、見たことがある。
ヒナとゲーミングモールへ行った時に、掲示板でニュースになっていたよね。
確かにその時みた訪問学校の一覧に、ヒナのいた学校の名前があったはずだ。
「それに勝ちたくて私と組んだってわけ?」
「うん。私も昔のあなたと同じプロ志望だから、この機会を無駄にしたくなかったの」
「じゃあ……」
ヒナは少し言い辛そうに次の質問をした。
「校内ランク最下位で誰も組んでくれないって聞いたけどほんと?」
「……ッ!?」
「さっき、戦ってた二人が言ってたんだ。校内ランクが最下位で誰も組んでくれないって」
「それは、本当よ」
俯きながら話すユキミさんの表情は暗く、見ているこっちまで辛くなってくる。
う~ん、空気が重い……。こういうときこそパルちゃんの無駄に明るいテンションで空気を変えてほしいんだけど、ゲーム外の話にはあまり反応してくれないし。
あれ? ってことは、もしかして空気を変えるのは私しかいないってこと?
これは、やるしかないのかな?
こんなに重い空気のままでゲームをプレイするっていうのは、正直しんどいしね……。
いつものパルちゃんをイメージして――。
「いやっほう! うまく逃げ切れたね! さあ次の戦いに向けてアイテム集めだよ!」
「…………」
「…………」
うん、ダメだよね。普段静かな私がこういうのできっこないよね。
あぁ、目を合わせられない! でも絶対二人が冷たい目をしてるのだけはわかる!
「まったく……シズネがこんなことしちゃうくらい殺気立ってたってことかな? ごめんごめん」
そういうとヒナの空気が柔らかくなった。
ひとまず成功ってことでいいのかな?
「別にユキミに怒ってるわけじゃないんだ。さっきの話が本当だとして、ユキミが校内ランク最下位になったのって私のせいでしょ」
「はい! 質問質問! 校内ランクって何?」
「えっと、私のいた学校は定期的に校内戦をして順位付けするんだ。もともとは私が一位でユキミが二位」
確かヒナの学校って強豪だっていってたよね? そこの一位と二位ってことはめちゃくちゃすごいじゃん!
「そのユキミが最下位まで落ちるってことは、私が抜けてプレイスタイルを変えなくちゃいけなくなったからだと思うんだよね。そうでしょ?」
「まあ……それも理由の一つではある、かな」
「うん、だから悪いことしちゃったなって。転校は急だったしね。ということで、一つ決意表明!」
そういうとヒナは手を上にあげた。
「この試合、ちゃんと戦うよ。みんなと顔合わせるのは嫌だけどね」
「ヒナ……」
すると、肝心な時に黙っていたパルちゃんが飛び出してきた。
「いいですね~。昔の相棒と今一度協力する! 新しい魔法少女の形です!」
「出てくるならもう少し早く出てきてほしかったよ」
私が無理する前に出ていてくれれば……。
「ユキミはそれでいい? っていうかいいでしょ?」
「うん、問題ない」
「じゃあ三人で優勝目指してガンバロー!」
私とユキミちゃんがオーと声を合わせ、私たちの戦いは始まったのだった。
◆◆◆◆◆
「お、【
「こっちは【
私たちは今、屋上から地上へ向けて建物を降りながら、アイテムの探索をしていた。
というのも、私とヒナが早々に接敵して装備が整っていない状態だし、ユキミちゃんは私たちを助けるため有用なカードを使ってしまったという状態だからだ。
「攻撃や補助の魔法も大切だけど、回復アイテムもしっかり探していこう」
そして、ゲーム開始時点から時間が経っていることから、今度は分かれて探索するのではなく一緒に探索を行っていた。
「シズネ、ここから出会う敵は基本的に装備が整ってると思って動いてね」
「わかった。敵を見つけたら逃げるって考えでいいんだよね?
私の質問には、「そうね」と「戦うよ!」という二つの答えが返ってきた。
「装備は貧弱。まだ連携の確認やシズネさんの力量も把握できていないし、戦闘は避けるほうがいいに決まってるでしょ」
「いやいや、敵を倒していっきに装備を集めようよ! そっちの方が危険が少ないって!」
「撤退です」
「抗戦だよ!」
ぐぬぬぬぬ……と見つめ合う二人だった。
「じゃあ私は撤退に一票! これで二対一だね」
「あー、シズネ! それずるいって!」
「ずるくないよ多数決だもん」
「シズネさんの言う通りね」
そうして三人で笑いあいながら、残りの方針についても話をしていく。
「あと、決めておかないといけないのは、プロ選手を狙うかどうかかな。正確には元プロで現役を退いてコーチをしてる人なんだけど、実力は確かよ」
ユキミちゃんが実力は確かというのなら、私なんかじゃ手も足も出ない。
でも――
「元プロの人と戦えるってすごいことだよね?」
「うん。私もこれが初めて。しかもプロを倒せたら、無条件でスカウトしてもらえるって話よ。だからこそ慎重にならないといけないんだけどね」
ユキミちゃんの言葉にヒナは数秒悩んでから答えた。
「それは……さすがに後回しかな」
「あれ? ヒナが後回しなんて意外」
「正直早く戦ってみたいけどね。でもさ、ただでさえ強い選手を相手に横やりを警戒しながら戦うのってしんどいでしょ?」
「あ、確かに」
倒せばスカウト確定! なんて好条件なら、みんながそのチャンスをうかがってるはずだ。
私たちが戦っているときに漁夫の利を狙ってくる可能性は高いと思う。
「でも、向こうから向かってきたらどうするの?」
「その心配はないんじゃないかな? だって上手な選手を見極めるためにいるんだし、プロが倒して回ったらそんなのわからないでしょ」
うん、確かに。
「じゃあ話を整理すると、敵との交戦は避ける。もしもの場合は撤退。プロとの戦闘は後回し。これでいい?」
「うんオッケー!」
「しょうがないか……」
満足してうなずく私と、どこか不満がありそうなヒナだった。
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