第35話 ヒナの後悔

「それでさ、なんで逃げたの? 私たちの方が有利だったよね?」


 ヒナの知り合いと戦った後、体力やマナの回復をしながらできる限り距離を開けようと街の中を走り続けていた。


「そ、その前にユキミに連絡させて。撤退したこと伝えておかないと」

「う~ん、話ごまかしてない?」

「ないない!」

「はぁ~、わかったよ。でも終わったら絶対説明してもらうからね」


 そしてヒナは通信を開始した。


『ユキミ、私だけどちょっと事情があって撤退したよ。合流できそう?』

『難しいわね。近くで戦闘が始まってそっちへ行けないの。大回りしていくから、しばらくは隠れてて』

『わかった。できるだけアイテム集めとくよ』


 そしてヒナが通信を切ろうとしたとき、ユキミちゃんが控えめに問いかけた。


『えっと……相手の魔法少女は見た?』

『うん、見たよ』

『そっか』


 そして歯切れの悪いまま、通信は終わった。


「よーし、じゃあユキミが合流するまで、アイテムでも探そっか!」


 いやいや、なに普通にマップ探索に行こうとしてるのよ!


「何がアイテムでも探そっか! よ! 事情を説明するって約束でしょ?」

「あはは……あんまりおもしろい話じゃないし、やめとくのってあり?」

「どうしても話たくないならいいけど……私は教えてほしいな。友達だからさ」


 すると、ヒナは腕を組んで考えるそぶりを見せた後、あきらめたように口を開いた。


「わかった。教えるよ。さっきシズネが攻撃にあたったのも私のせいだしね。ただ、本当に面白い話じゃないからね」


 そして、側にあった建物へと入っていく。

 外にいたら、いつ魔法少女の襲撃にあうかわからない。人目につかない場所でゆっくりと話をしようということだった。

 乱雑に置かれた木箱に腰かけると、ヒナはゆっくりと話始めた。


「どこから話そうかな……。私が通ってた萌黄もえぎ中学は、電子競技部が強いってことで有名だったんだ」

「電子競技ってゲームのことだよね」


 そしてヒナは、中学に入ってゲームに目覚めたこと。

 部活動で実力を伸ばしていったことを説明してくれた。


「ユキミとは部活に入ってすぐチームを組んで、そこからずっと一緒だったんだ」


 相棒って言ってたっけ。確かに部活にはいってずっと一緒なら、そう呼ぶのにも納得がいく。


「で、ここからが本番」


 ここまでは、どこか楽しそうな雰囲気で話ていたヒナの表情が、真面目なものに変わった。


「私とユキミはめちゃくちゃ練習して、デュオ……二人チームで戦った時の戦績が部内トップにまで行ったんだ」

「おぉ、すごい!」


 強豪中学っていう話だったし、部員の人数も多そうなのに、そこでトップってすごいよね。


「それで中学電子競技大会っていう、すごく大きな大会に出ることになってさ」

「中学電子競技大会?」


 すると、パルちゃんが簡単に大会の説明をしてくれた。


「中学電子競技大会は、中学生で参加可能な大会の中では最も大きな規模の大会ですよマスター。各都道府県で予選を行い上位三チームが集まった全国大会までありますから! ちなみにこのMKDも参加種目として登録されています!」

「そんなおっきい大会があったんだ!」

「ゲームがスポーツとして認められてから日が浅いため、開催回数はすくないですが規模こそほかのスポーツに負けない大会です!」


 くるくると飛び回りながら、大会の説明をしてくれるパルちゃん。

 大会優勝者のインタビュー記事や試合風景の写真など、色々なものを表示しては丁寧に説明してくれた。


「それでさ、この大会で私とユキミが予選二位になったんだよね」

「二位!? え、それってすごいんじゃないの?」

「う~ん、どうだろ?」

「いやいやすごいって! それに上位三チームが全国大会へ出場ってことは、ヒナは全国大会に出れたってことだよね?」


 すると、ヒナはなんだか気まずそうに笑った。


「あ、あはは、その二位になったのがきっかけで、チート使っちゃったんだよね」

「おい!」


 なんでここで使うのよ! え? だって強くなりたくってチートを使っちゃったって前に言ってたよね? 大会で二位って十分強いじゃん!


「私はさ、一番じゃなきゃ嫌だったんだ。プロになるっていうのは、そういうことだと思ったからね」

「プロに……それでどうなったの?」

「もちろん、本選への参加資格は剥奪。穴を埋めるために別の部員が参加したけど、結果は惨敗。それでさ、めちゃくちゃ部員の子たちと揉めたんだ。もめたっていうか、一方的に怒られたって感じかな」

「うん、まあ怒るよね……」


 タイミングが悪すぎる。

 ユキミちゃんとヒナはずっと二人で戦っていたのに、突然、しかも本番で相方が変わったわけだ。それで大会も負けたとなると責められるっていうのは納得できる。


「それで結局収まらなかったから、引っ越したってわけ。これが話したくなかったこと。ね、おもしろい話じゃなかったでしょ」

「確かに面白い話ではなかったけど、聞けて良かったかな」


 少なくとも、ヒナがユキミちゃんを避けていたことや、昔のチームメイトを見て動揺していた理由はわかった。


「っていうか、そんな事情があるのに、なんでユキミちゃんはヒナをこの試合に連れてきたの?」

「正直さっぱりなんだよね。私も教えてほしいくらい」


 嫌がらせ? でもそんなことする人には見えなかったし……。


「まあ事情はわかったよ」

「さすがシズネ! じゃあ、さっそく逃げるとしましょうか!」


 ヒナの言葉と同時に、窓の外から魔法弾が飛び込んできた。


「おっと、危ない!」


 ヒナが私を押し倒したことで攻撃は回避できたけど、これはまずいんじゃない?


「いくよ! 【透明ハイド】!」


 私も【透明ハイド】の魔法を起動する。


「今回は迎え撃つつもりはないし、逃げに徹しよう。ただ、【透明ハイド】を持ってることはバレてるから、あまり期待しないようにね」

「わかった。向こうは回復済ましてるよね?」


 私とヒナの奇襲で大きなダメージを与えていたから、ここまで追いかけてこなかった。でも、こうして再度襲撃をしかけてきたということは、不利な状況を脱したってことだ。

「うん。どっか行ってくれるかなとも思ったんだけど、ダメだったね。やっぱり私嫌われてるのかな~?」

「ケンカ別れしてきたんでしょ? しょうがないって」


 そして二人で建物を飛び出した。

 まだ敵の魔法少女の姿は確認できないけど、出入口は見張られていると思った方がいい。

 その時、赤い光が周囲を包み込んだ。


『シズネ、走って! 今の【索敵サーチ】だよ!』

『やばっ!』


 【索敵サーチ】は名前の通り、相手の場所を探すスキルだ。

 敵が隠れてそうなときとか、【透明ハイド】を使っていそうな時に役立つ魔法で、正直私の天敵のような魔法だった。


「マスター、【索敵サーチ】で発見されたプレイヤーは、一定時間マップに表示されるほかにも、使用者に赤く目立つように表示されます。【透明ハイド】の効果は望めませんですよ!」

「うん、今は逃げよう!」


 遮蔽物になりそうな、瓦礫の残骸へ向けて走っていく。

 その間にも、背後からは【複射マルチシュート】の魔法弾が飛んでくる。


「シズネ、こっち!!」


 側にあった建物の入り口で叫ぶヒナ。

 ヒナも【索敵サーチ】の影響を受けたからか、【透明ハイド】の魔法を解除して普通に体が見える状態になっていた。


「え、えいっ!」


 そこへ飛び込むように頭からダイブすると、ヒナが倒れながら受け止めてくれた。


「とりあえず、中に入るよ!」


 そして私たちが走り出そうとしたとき、ようやく待ちに待った助っ人の声が聞こえてきた。


『待たせたわね。ここからは反撃に転じましょう!』

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