第34話 不利な戦い?
さっきまでアイテムを探していた部屋で、ヒナと今の戦力を確認していく。
「私たちは二人。相手は三人だから基本的にはこっちが不利だよ。少し時間を稼げればユキミが合流してくれるから、それで対等って感じかな」
「わかった。じゃあ時間を稼ぐためにも逃げた方がいいよね?」
「いやいや、背中向けて逃げてる相手なんて、恰好の的だよ。ここは迎撃するしかないでしょ!」
「相手の方が多いのに?」
「もちろん!」
う~ん、本当かなぁ……。
チーターと戦った時や、それ以外でも一緒にゲームをしていてわかったことがある。
ヒナはぶっちゃけ戦闘狂だ!
敵がいれば突っ込んでいくし、逃げるって選択肢がない。そしてそれっぽい理由で私はいつも納得してしまう。
本当にヒナの意見が普通なのか、ほかの人の意見も聞いてみるべきだと思うんだよね。
『ってことらしいけど、ユキミちゃんはどう思う? やっぱり相手の方が多いから逃げた方がいいよね?』
『そうね、ヒナの言う通り背中を見せて逃げるのが悪手なのは本当かな。反撃してこない敵っていうのは狙う方からすればリスクがほとんどないから』
チラッとヒナのほうを見ると、ほらねって顔をしたヒナがいた。
なんだかちょっとむかつく表情だった。
『ただ、相手を倒す必要はないわ。時間稼ぎとか隠れてやり過ごすとか、ほかの方法の方が安全だし堅実だと思う。私が合流してから反撃にでればいいし』
『やっぱりそうだよね!』
ユキミと話をしていて、ここ数日の私のもやもやが解決した。
「うん、やっぱりヒナは戦闘狂だ!」
「そ、そんなことないってば!」
『ヒナは戦闘狂よ。それは正解』
「ほら!」
「ぐぬぬ……」
前の学校でユキミちゃんはヒナのパートナーだっていってたし、その人が言うのなら間違いない!
『ただ、私の意見は一般論にすぎないわ。現場のことは現場で判断したほうがいい』
『さすがユキミ!』
そして納得したように、うなずいたヒナは改めて方針を宣言した。
「ってわけだから、やっぱりここで迎え撃つよ! 目指せユキミが合流する前に敵を全滅! ってことで」
そうして、私たちは急いで手持ちのカードの確認をすることになったのだった。
◆◆◆◆◆
「これで全部だよね」
テーブルの上に並べられたアイテムを二人で見つめていた。
回復系のアイテムは最低限そろっているし問題なし。
ただ、魔法のカードはかなり心もとない状況だ。
「【
「外で戦うのはダメ?」
「うん、人数差があるから室内で戦いたい。ただ、問題はほとんどの魔法が室内戦に向いていないってことかな」
【
近距離で攻撃力の高い魔法を相手が持っていた時、攻撃力の差で押し切られちゃう。
【
ってなると、残りのカードだけど……。
「【
「名前の通り姿を隠すカードですよ、マスター! ただ、完全に消えるのではなく空間が揺らいでいるような違和感はあるので、近くで見ればすぐにばれてしまいます。ほかにも消えている間はマナを消費し続けます」
「見えるってことは、これもあんまり室内で戦うのには向いてないね」
窓から外を見てみると、こっちに向かってくる魔法少女三人組が見える距離にまで迫ってきていた。
「ん~、シズネが言う通り【
「透明になって逃げるってことだよね?」
「透明になって奇襲するってことだよ!」
「やっぱり逃げないんだ……」
そしてヒナと残りのカードを分け合うと、二人で魔法を発動させた。
「「【
ステッキから光があふれ体を包み込んでいくと、ヒナの姿が目の前から消えていった。
「うわぁ、ほんとに消えた!?」
「動いたりすると、結構見えちゃうから気を付けてね。ホラ!」
ヒナがヒラヒラと手をふると、空間が歪んだように見える。
シャボン玉越しに向こうの景色を見ているような、不思議な見え方だった。
「じっとしていても、案外見えるし過信は禁物だよ。あと、足音とかは普通に鳴るから気を付けてね」
「任せて! 足音を消すのは得意だよ!」
というか、存在感を消すのは大体得意だよ!
人から話かけられない方法は心得てるんだ!
そして建物の出入り口へいくと、すでに敵の魔法少女がそこにいた。
建物の外がら差し込む光が逆光になっていて、表情は見えないけど、三人組の魔法少女だ。
『私から少し離れてついてきて。移動はゆっくり足音に気を付けてね』
『わかった』
会話を通信に切り替えて、小声で話をする。
敵はこの建物の一階エントランスに今ちょうど入ってきたところだった。
三角形に陣形を組み、周囲を警戒しながら建物の形を確認していた。
「敵は二人、奇襲の可能性もあるからお互いにサポートできる距離をキープして!」
「はい!」
「こっちの部屋はクリアです! 次の部屋へいきます」
入り口から繋がっている部屋を、一つずつ確認していく女の子たち。
死角になるところも丁寧に確認していく姿は、なんだか本物の特殊部隊みたいだった。
『ああやって、敵が隠れてないか確認してるんだよ。クリアリングって言って色々なゲームで使えるテクニックだね』
少し離れたところから、ヒナがこっそりと教えてくれる。
『このまま入口側までいったら、そこから攻撃するよ。出入口をふさいで確実に敵を倒す』
『わかった』
そしてゆっくりと歩いていく。
私たちがちょうど入口側へとやってきたところで、逆光になっていた魔法少女の姿が見えてくる。
服装はオーソドックスな魔法少女衣装。ただ、それぞれが赤、青、黄の色違いの衣装を着ていることから、ますます朝のアニメ感が強くなっていた。
「って、なんでみんながこんなところに……」
ヒナが驚いたようにつぶやくと、その言葉に相手が気付いた。
「全員離れて! 敵の奇襲」
「ッ!? シズネ行くよ!」
慌てたような合図に作戦通り動き始める。
「【
ステッキが大きな杖へと姿を変える。
私の身長よりも大きな杖は、その見た目通りの重さになった。
前もって聞いていた通り、これをもって室内で戦うのは無理そうだ。
でも、出入口をふさいだ状態で魔法を乱射するだけなら、これで充分!
「いっけえええええ!」
【
そこへ、ヒナが【
作戦通り!
マナが尽きる少し手前で攻撃を終えると、かわいくデフォルメされたお墓が一つ出来上がっていた。
逃げ遅れた魔法少女の体力がなくなったんだ。
倒せた魔法少女は一人。
でもほかの二人にだってダメージが入っている。
人数は同じだけど、私たちが有利なのには変わらない!
「シズネ! 撤退!!」
「撤退!? 攻めるんじゃないの? こっちが有利だよね!」
「そ、そうだけど……」
ヒナの表情はなんだか辛そうだった。三人の姿が見えた時も様子がおかしかったし、知り合いなのは間違いないと思う。
「とにかく逃げるよ!」
そしてヒナが私の手をとって走り出そうとした瞬間。
「させない!!」
建物の奥から、隠れていた魔法少女が【
逃げなきゃ!
そう思って走り出そうとした時、【
「くぅ……」
「シズネ!」
「大丈夫、かすっただけだから」
【
「ヒ、ヒナさん!? どうしてここに――」
「……シズネ、魔法を【
「でも……いいの? 話さなくて」
「うん」
魔法を変更すると、ステッキは剣の形になり軽くなる。
そしてヒナの知り合いの魔法少女を残して、私たちは建物から撤退していくのだった。
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