第33話 カスタムマッチ

「それで、説明してくれる? どうしていきなりゲームに参加させられてるの?」


 今私とヒナはMKDの世界にいた。というかバトルロワイヤルが開始されていた。

 扉を潜り、空の上に放り出された私たちは、意味も分からないままこの小さな街へと降下してきたというわけだ。


 空はどんよりと曇っていて、辺りには黒い謎の液体でできた沼のようなものまである。 ガスっぽい空気で遠くまで見通すこともできないし、なんだか不気味な場所だった。

 来るのは初めてだけど、ヒナから簡単な説明を聞いたことがある。


 MAP右下にある汚染区域。


 たぶん、ここがそれなんだと思う。

 沼に入るとダメージを受けるらしいし、気を付けないと……。


「説明はボイスチャットで。とりあえず手分けして装備を集めましょう」

「はぁ……わかったけど、シズネは私と一緒に行動するよ。ユキミだけ別行動」

「どうして? 三人で手分けした方が効率いいはずだけど」


 首をかしげるユキミと呼ばれた女の人は、じっとこっちを見つめてくる。


「あの、えっと……私まだ初心者で」


 昨日ヒナとたくさんゲームをしたとはいえ、まだまだ下手っぴだ。

 突然敵と遭遇したら、ヒナたちと合流する前に倒される自信がある。


「わかったわ。巻き込んでごめんなさい。詳しい話は探索中にするから二人は一緒に行動して」


 そして走っていってしまうユキミちゃん。


「悪い人じゃなさそうだけど、どういう関係なの?」

「前の学校でチーム組んでた相方だよ」


 前の学校ってことは、ヒナがプロを目指して頑張っていた時の相棒ってことか。

 でも、それじゃあ……。


「気付いてると思うけど、私がチート使って部活やめたり引っ越したりしたときに、結構迷惑かけちゃったんだ」

「やっぱり、そうだったんだね。でも、なんで今さらゲームに誘ってきたの?」

「それはさっぱり。説明はしてくれるみたいだし、とりあえずアイテム集めにいこっか」

 そして私たちは、暗い淀んだ街へと繰り出していった。


◆◆◆◆◆


 汚染地域の街並みはほかのエリアとずいぶん違うものだった。

 ファンタジーな見た目の建物が多いMKDの中でこのエリアだけは、現実にも存在していそうな高層ビルや道路があるからだ。


 ただ、そのどれもが壊れていたり整備されずに使い物にならなくなっている。

 遠い昔に誰かが住んでいた、そんな趣のエリアだった。


「ゲームの設定だと、昔人が住んでいて滅びた場所って感じだったかな。高層ビルからの狙撃とか隠れる場所も多いエリアだから気を付けて」

「狙撃ってどうやって気を付ければいいの?」

「ん~、立ち止まらないとか開けた場所に出ないとか、それくらいかな。まあ動いていてもヘッドショット決められることもあるし、どうにもならない部分はあるけどね」


 そんな身もふたもない答えを聞きながら、建物の中に入り、アイテムを回収していく。

 ヒナと一緒なら相手から奇襲を受けたとしても、ユキミちゃんに合流するくらいは何とかなると思うけど、この雰囲気も合わさってなんだか不安になってくる。

 そんな時、通信でユキミちゃんの声が聞こえてきた。


『まず、関係無いのに巻き込んでごめんなさい。私はユキミ。ヒナとは昔ずっとパーティを組んでた相方よ。あなたはシズネさんでよかった?』

『うん、よろしくねユキミちゃん』


 そして簡単な挨拶を済ませると、状況の説明を始めてくれる。


『まず、このゲームはカスタムマッチよ』

『カスタムマッチ?』


私の疑問には隣にいるヒナが答えてくれた。


「カスタムマッチっていうのは、自分たちでルールを決めて友達とか知り合いだけで遊ぶルールだよ」

「ってことは、参加してる人はみんな知り合いなんだね」


 インターネットで世界中の人と遊ぶんじゃなくて、友達と遊ぶためのルール。

 知り合いだけで遊ぶっていう意味では、私がもともと持っていた、ゲームのイメージに近いのかもしれない。


「自分たちでルールを決めるっていうのは、どんな感じなの?」

「ゲームにもよるけど、MKDの場合はかなり自由に設定できるかな。マップの広さとかバトルエリア縮小のスピード、ほかにもいくつかの特殊なルールを設定できるよ」

「特殊なルール?」

「マナが無限になるとか、ヘッドショット以外ダメージ無効とか、そういうの。時々遊びでやると結構楽しいんだよね」


 確かにゲームに慣れてきたころにやる分には、楽しいかもしれない。

 でも、まだ普通のゲームで十分楽しめている私には、そこまで必要性は感じないかな。


『それじゃあ、カスタムゲームのルールを教えてよ』


 探索の手を止めずに、ヒナがユキミちゃんに問いかけた。


『戦闘エリアの縮小が普段よりも早くなってるのと、ワイドサーチが組み込まれてる』

『うわ、過激なルール』


 言葉とは裏腹に、ヒナの表情は少しだけ楽しそうなものだった。


「えっと、そのワイドサーチってどういうルールなの?」


 私が質問をした瞬間、杖から見慣れたあの子が飛び出してきた。

 小さなウサギ型のマスコットキャラクターパルちゃんだ!


「初心者マスターのために、私がお教えしますですよ!」


 初めてゲームをしたときにお世話になった、プレイヤーのサポートをしてくれるキャラクター。特に初心者の私にとってはありがたい相棒だ。


「ワイドサーチというのは、特定の周期でプレイヤーの場所がマップに表示される効果です。隠れたり待ち伏せするのが難しくなるので特にマスターは要注意ですよ」


 そのルールと戦闘エリアの縮小が早くなるっていうのが組み合わさると……。

 そっか、逃げる範囲が狭く隠れることもできない、戦闘必須の戦場が出来上がるんだ。

 戦闘狂のヒナが喜ぶわけだね。


『それと戦闘相手のプレイヤーなんだけど……』


 ユキミちゃんがそう話を続けようとしたとき、ピーピーというアラーム音が辺りにこだました。


「マスター! ワイドサーチの時間です! マップを表示しますね!」


 そしてステッキから出てきたコンパスが、目の前の空間にマップを表示してくれる。


 映し出されたマップが更新され、周囲のプレイヤーが赤い点として表示された。赤い点がどれも3つ固まっているってことは、私たちと同じようにどこも、三人チームで動いてるってことだよね。


 そして私たちのすぐ側に赤い三つの点が表示された。


「――ッ!? ち、近くにいるよ!」

『ヒナとシズネさんのほうが近いから気を付けて! 私はすぐに合流する!』


 そしてマップに映った赤点が私たちの方向に移動を開始したところでスキャンが終わり、マップから表示は消えていった。

 間違いない! 敵がこっちに向かってきてる。


「シズネ、集めたアイテムを出して! 相手が向かってくるってわかってるなら、全員やっつけちゃおう!」


 そうして私たちのカスタムマッチの戦闘は幕を開けた!

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