第31話 ショッピング
部屋の扉をくぐり街へとやってくると、そこはきれいな噴水が印象的な広場だった。
そこから東西南北に大きな道が伸びていて、ゲーム内の様々なアイテムが販売されるお店が広がっている。
「試合の観戦に行くときも通ったけど、すごく綺麗な場所だよね」
「ネット世界の街だから汚れることもないしね。ゲームに必要なものは全部ここで手に入るから、困ったらここに来るといいよ。ゲームソフトの販売からゲーミングシェアハウスの手配まで、本当になんでもしてくれるから」
「シェアハウスって、そんなのまであるんだね」
街の中には私たちと同じようにMKDの衣装を着たプレイヤーもいれば、ほかのゲームから来たプレイヤーまで様々だ。
ゲームの中に入ったみたい……っていうと実際にVRゲームの中にいる以上おかしな表現だけど、本当にファンタジーの世界が広がっていた。
「シズネがもうちょっとゲームになれてきたら、この街で待ち合わせとかする機会も多いだろうし、道は覚えておいたほうがいいよ」
「ヒナの部屋じゃダメなの?」
「ダメじゃないけど、ゲームで知り合った友達と買い物に行くってなれば、こっちで待ち合わせたほうが都合いいからね」
ゲームで知り合った友達と、ゲームの中で買い物に行く……。
すごいファンタジーだ!
「学校の友達と買い物に行ったこともないんだけど……」
「まあ、それはそれだって。実際ネットだと性格変わる人とかもいるしさ」
「車に乗ると性格が変わるみたいな感じ?」
「そうそう。っていうかシズネだって、ネットの中のほうが少し明るいんじゃない?」
「そ、そうかな?」
そんな話をしながらも、私たちは街へと繰り出していく。
目指す場所はもちろん家具屋さん!
本当は街の主要場所まで転移することもできるみたいだけど、今回は道を覚えるために徒歩で移動することにした。
「本当にかわいい街だよね。外国の街みたい」
「イギリスの街をイメージして作ってるらしいよ」
「ゲームで旅行気分も味わえるね」
そしてのんびりと街の中を移動しているときのことだった。
「ヒナ!?」
一人の女の子が驚いたように声をかけてきた。
白髪ショートの髪に、知的な眼鏡をかけている女の子だ。
魔法少女らしいふわふわとした衣装を着ているってことは、この人もMKDのプレイヤーかな?
「げっ、ユキミ……」
そして返事をするヒナ。
「ヒナの知り合い?」
「まあ、そうなんだけど……」
知り合いにしては、ヒナの様子はずいぶんとおかしかった。
あんまり顔を合わせたくない相手なのかな?
「まさか、こんなところで会うなんて……。ちょっと話があるの、少しいいわよね?」
「ごめん。ちょっとこれから用事があるからさ」
「また、そうやって逃げるつもり?」
「それは……」
相手の人の表情は険しかった。怒っているのか、悲しんでいるのかはわからないけど、何か思いつめているような、そんな表情だ。
そして二人の会話を見つめていると、ヒナが急に私の手をぎゅっと握った。
「ごめん!」
そしてヒナは私の手を握ったまま、メニューから転移先を選択するのだった。
◆◆◆◆◆
転移が終わりあたりを見回してみると、少し景色が変わっていた。
とはいえ、同じゲーミングモールの中みたいで道の両脇にはさまざまなお店が並んでいる。
「ヒナ、逃げてきてよかったの? なにか話があったみたいだけど」
「いいのいいの。ホラ家具屋さんここから近いんだ! レッツゴー!」
どこか空元気なヒナと一緒に、そのままお店へ向けて歩いていく。
本当に放っておいていいのかな?
話だけでも聞いてあげたほうがよかったんじゃ……。
そんな悩みを持ちながらも、ヒナに引っ張られて家具屋さんへと入っていくと、私の考えは目の前の光景に塗りつぶされていった。
「か、かわいい!!」
「シズネはこういうのが好きだと思ったよ。ここは夢かわ系の家具がたくさんあるお店だからね」
パステルカラーを基調とした、乙女チックなかわいい家具が店のなかに所せましと並べられていた。
くもの形のソファー。七色の貝を模したローテーブル、天蓋付きのベッド。
ヒナの読みどおり、これは私の好みにピッタリだ!
「で、でもお高いんでしょ?」
「このあたりの目玉商品は、基本的に課金しないと買えないかな。シズネの所持金はいくらになってる?」
メニューボタンからプロフィールを表示。そこには【0PGM】【1000GM】の表記があった。
「えっと、0ピージーエムと1000ジーエムだって。なにこれ?」
「【
「じゃあこの前ヒナと一番になったから1000GMもらったってこと?」
「そういうこと。順位に応じてもらえるからね。ちなみに1000GMだと買えるのはこのあたりかな」
ヒナが教えてくれたのは、卓上ランプと絨毯、あとは小物数点といったものだった。
「って、全然買えないじゃん!!」
「そりゃ一回ゲームで優勝しただけじゃね。でも、ゲームを遊べば家具も手に入るって思えば、たくさん遊びたくなるでしょ」
「た、確かに」
こうやってゲーム沼にはまっていくのか……。
「って訳だから、シズネは部屋をいい感じにするために、バンバンMKDで遊んじゃおう! 私はいくらでも一緒に遊べるからさ!」
「うん、これは頑張らなきゃ!」
そしてとりあえず、この1000GMは使わずに、二人でヒナの部屋へと戻っていくのだった。
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