第30話 いざ、マイルームへ!
机の上に置かれたクッキーを口に放り込むと、サクッという小気味よい音と甘い味が広がっていく。
ここはMKDのヒナの部屋。
第118回『
「やっぱりプロの試合は立ち回りがすごいんだよね。三人チームでうまく連携も取れてるし、すぐ味方のカバーができる場所を維持してるしさ」
「魔法弾が相手に吸い込まれていくみたいに当たってたのもすごかったよね。ヒナもすごかったけど、プロの人はもっとすごかった!」
「普段の練習の成果だよね。ほんとすごすぎ!」
ヒナはそこまで話すと、ズズッと紅茶を飲んで落ち着いていく。
「それで、どう? ゲーム機の調子は良さそう?」
「うん、バッチリ」
私が今使っているVRゲーム機。
お母さんからお小遣いの前借をして、さらにお手伝いをしまくった結果、ようやく購入できたものだった。
ちなみに今回のプロ試合の観戦チケットは、ヒナがゲーム機購入記念でプレゼントしてくれたものだ。
「シズネもこれからは、どっぷりゲーマーの沼にはまっていくんだね……」
「なんでそんなしみじみ? まあせっかくゲーム機も買ったんだしたくさん遊ぶけどさ」
正直言って私からするとかなり高い買い物だった。
高いお金を払った分、たくさん楽しまなくちゃ!
「確かチーターを倒してから、まだMKDやってないんだよね?」
「うん、VRゲーム喫茶でお金を使うより、ゲーム機を買いたかったんだもん」
チーター討伐。私がヒナと初めてゲームをプレイした試合に現れた二人組のチーターを討伐してから、今日が初めてのプレイというわけだ。
「ネットの有名人が、まさかまだゲーム機を持ってないとかだれも思わないよね」
「もう、その話はやめてって」
私がチーターを倒した試合は、ネットでも話題になりかくさん? されたって話らしい。
「学校でもすごい話題だったでしょ? ゲーム部から勧誘とかされなかったの?」
「ゲーム部? なにそれ?」
「ありゃ、知らなかった? えっと、電子スポーツ部って名前のゲームをプレイする部活だよ。みんなゲーム部って呼んでるけどね」
「そんなのあったんだ」
スポーツ系の部活動は入るつもりがなかったから、調べたことがなかった。
まあ、昔はゲームに興味もなかったしね。
「あ、そういえば私がシズネってプレイヤーか聞きに来た人はいたかも……」
「なんて答えたの?」
「ゲーム機すら持ってないっていったら帰って行っちゃった」
「まあ、そりゃそうだよね」
というか、あの恥ずかしい動画の人が私だなんて知られたくない。
一部のクラスメイトにはバレてるみたいだけど、できるかぎり秘密にしておかないと!
「ウチの学校のゲーム部はエンジョイ系の部活だったはずだし、興味があるなら顔だしてみたら? 友達出来るかもしれないよ」
「エンジョイ系?」
「うん、プロを目指すぞ! って強くなろうと頑張る人をガチ勢。のんびり楽しくゲームプレイする人をエンジョイ勢って呼ぶんだ」
「じゃあ私とヒナはエンジョイ勢ってことだよね」
「そういうこと!」
確かに面白そうだけど、人見知りしそうだし、あんまり気は進まないかな……。
「それじゃあそろそろ、ゲームしよっか。またチーターをバシバシ倒しちゃってよ!」
「いやいや、そんなポンポン出会いたくないよ。あと、その前に行ってみたい場所があるんだけどいいかな?」
「行ってみたい場所?」
「うん! 私の部屋!」
そして私はメニュー画面を操作すると、転移のボタンをポチッと押した。
すぐに目の前に広がる光景が変わっていく。
そして転移した場所は――灰色の四角い何もない部屋だった。
「あ、あれ?」
ここは私がゲームプレイ時に使用できる部屋……のはずなんだけど、この地味な光景はなんだろう。
ヒナの部屋みたいな、かわいい場所をイメージしてたんだけど。
「まあ、はじめはこれだよね」
「部屋ってヒナのところみたいな、かわいいのじゃないの?」
「シズネ、ああいう部屋はね”課金”しないと手に入らないんだよ」
「か、課金……」
ゲームをプレイするのは無料。つまりゲーム会社はどこかでお金を稼がないといけない。
それが課金!
「えっと、ヒナはあのお部屋にいくらぐらいかけたの?」
「ふふ、過去の失敗には目を向けないようにしてるんだ!」
「あ、はい……」
この瞬間、私のかわいいマイルームの夢ははかなく消えていった。
と、思った瞬間。
「まあ、私の部屋ほどじゃなければ、お金をかけずに作れるよ」
「ほんと!?」
ヒナの言葉に顔を上げる。
「ゲームを遊ぶとアイテム購入用のお金がもらえるからね。課金専用のアイテムは無理だけど、それでも普通の家具なら買えるはず」
「おぉ! どうやって買うの?」
「それじゃあ、ゲームは後にして買い物にいこっか。また街までいくよ!」
「うん!」
そして私たちはもう一度、街へと向かっていくのだった。
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