第28話 日常へ

 けだるげなチャイムがなって、教室の中がざわざわと動き始める。


 MKDマジカル・ナイト・ドリーミングでチーターと戦ったあと、私たちはVR喫茶を後にして連絡先を交換して解散した。

 ただなぜか別れ際に日奈が、またすぐに会える気がする、と言っていた言葉だけが私の頭から離れずにいた。


「なんだか、昨日の戦いが夢みたいだなぁ」


 パルちゃんもいない、日奈もいない。魔法のステッキや戦うべき魔法少女もいない。

 昨日初めてゲームをしただけなのに、なんだか懐かしく思えてくる。

 今すぐにでも、もう一度ゲームを始めて日奈と一緒にマップを飛び回ってみたい。


 これが日奈の言っていた沼ってやつなのかな?

 昨日できなかった戦術とか、まだ使っていない魔法とか、試してみたいことはまだまだある。


 次はいつ遊べるんだろう……。

 まずは、あのゲーム機を買わなきゃなぁ。

 値段っていくらだろ? お小遣い前借しなきゃだよね……。


「あ、いた! おーい静音~!」

「え? 日奈!?」


 顔を上げると教室の入り口に日奈が立っていた。

 え? なんで?


 いくら友達が少ない私でも、ヒナが同じ学年にいないことくらいはわかる。

 どこから来たの? っていうか同じ制服だし!


「あれ? 静音ちゃんって転校生と知り合いなの?」

「て、転校生!?」

「ほら、朝先生が隣のクラスに転校生が来るっていってたでしょ」

「そ、そうだっけ?」


 覚えてない。MKDのこと考えてて聞き逃してたのかな?

 そう思っている間にも、日奈はずいずいと私の席までやってきていた。


 違うクラスの教室って入りづらいのに、よく普通にはいってこれるなぁ。


「ほら、近いうちに会えるって言ったでしょ!」

「近すぎだよ!」


 転校してくるのなら、そう言ってくれればよかったのに。


「そういえば、昨日の試合めちゃくちゃ話題になってるよ! マイチューブに見どころがまとめられてたぐらいだしね!」

「ま、まいちゅーぶ?」

「動画配信サイト! もう、中学生ならそれくらい知ってないと」

「動画配信って、もしかして私も映ってるの?」

「そりゃ、チーターを倒して優勝したわけだからね」


 そんな話をしているとクラスメイトの何人かが会話に入ってくる。


「話題になった試合って、MKDのこと? もしかして二人ともMKDやってるの?」

「ちょっと見てみようぜ!」


 それに対して日奈が胸を張って、あの日の活躍を説明していく。

 いや、恥ずかしい! 普段内気な私がゲームでがっつり戦ってるところを見られるなんて!


「あれ? そういえば、あのポーズのところは? ほら、メヒョウの……」

「もちろん映ってるよ! めっちゃコメントが付いてた! 人気者だね!」

「人気者じゃない! あんなの人に見られたら――!」


 視線を感じて振り返ると、男子が顔を赤くしながらこっちをチラチラとみてきている。

 ああ、言わんこっちゃない!


「まあドンマイ!」

「ドンマイじゃない!」


 ハァ……まあ今更どうすることもできないか。


「あはは、楽しかったんだしいいじゃん」

「確かに楽しかったけどさ」


 そんな話をしていると、チャイムの音が鳴り響いた。

 休み時間が終わって、次の授業が始まるんだ。


「じゃあいくね! またあとで」


 そういって自分の教室に戻ろうとする日奈を――私は待ってと呼び止めた。


「今日の放課後さ、また一緒に遊べないかな?」


 初めて、友達を遊びに誘った気がした。

 ゲーム屋さんで店員さんに声をかけられずにウジウジしていた私が、こうやって誰かにゲームをしようって声を掛けられるなんて、びっくりだ。

 でも、悪い気はしない!


「おっけー! 今日も楽しくプレイしよ!」


 そして日奈は教室から出て行った。

 入れ違いになるように、先生が入ってきて授業が始まる。


 今日はどんな戦略を試そう。どんな魔法でどんな相手と戦おう。

 そしてどんな楽しい時間が待っているんだろう。


 私の胸は、授業どころではなくなっていた。

 今まで知らなかった楽しいことが、目の前に広がっていくこの感じ。

 やっぱり私ってゲーマーの素質あるのかな?


 夢みていたかっこいい魔法少女じゃなくって、気弱でへたっぴな魔法少女だけど、私は私が思った強くてかっこいい魔法少女になれた気がした。

 どれだけ苦境に立たされても悪に立ち向かう、正義の味方になれた気がした。

 そしてなによりも、ゲームを楽しむ魔法少女になれたんだ。

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