第23話 作戦と増援
コツコツと足音が近づいてくる。
ヒナはもう部屋の中に隠れていて、私だけがあえて目立つ場所で、チーターの到着を待っているという状況だった。
作戦が失敗したらどうしようとか、ヒナが見つかったらどうしようとか、悪い可能性ばっかりがグルグル頭の中に浮かび上がってくる。
でも、もうあとには引けない!
そこへチーター、チトセがゆっくりと姿を現した。
「あら、もう一人の仲間は逃げちゃったの?」
部屋の中へ入ってくると、ゆっくりと辺りを見まわす。
ヒナが言っていたウォールハック。
壁越しでもそこにプレイヤーがいるのかがわかるという、チーターの持つ能力だ。
チトセは私たちの奇襲を警戒して、あらかじめ部屋の中を確認したんだと思う。
そして奇襲の心配がないことを確認すると、勝ちを確信したように私に目を向ける。
奇襲がなければ負けるはずがない。
そんな自信たっぷりな態度だった。
「私の回復を全部渡したから、きっと今頃は遠くにいますよ」
「そう、少し手間だけどゆっくり探すとしましょうか」
そして手に持っていたステッキを私に向ける。
まだだ、ここで隠れているヒナが奇襲をしても、攻撃の直前で気づかれる。
ヒナが言っていた一瞬の隙を作る。
そのためにも、私がやるっきゃない!
「【
ヒナからもらった【
たちまち、私の目の前に魔法の盾が現れた。
「削り殺してあげる!」
チトセはそのまま、私へ魔法弾を放とうとステッキを振り下ろそうとした――。
その瞬間、【
攻撃の瞬間だけは、チトセの意識は完全に私に向く。それはヒナが欲しいといった一瞬のスキだった。
ウォールハックを使っていなければ、奇襲に備えて回避行動をとれたかもしれない。
チート能力を使っていなければ、もっと慎重に戦っていたかもしれない。
使ってはいけない力を使った代償が、この結果なんだ!
「ナイスシズネ! いくよ!」
「ッ! 隠れてた!?」
私とヒナはセットしていた攻撃魔法【
「「いっけええええええええ!」」
正面と頭上からの同時攻撃。
【
その瞬間、チトセの側にあった壁が破壊され、誰かが屋敷の中へと飛び込んできた。
キリッとした表情で、騎士のような衣装に身を包んだその子は、ヒナの攻撃を【
私の攻撃は相手に命中したものの、【
少し距離が離れた私の攻撃では、相手にダメージは与えられても一撃で倒しきるほどの威力は出なかった。
「まったく……だからお姉は詰めが甘いって言ったの」
「た、助かったわ」
そしてお姉と呼ばれたチトセが、ギロリと怒りに満ちた目をヒナと私に向ける。
「よくもやってくれたね! こっからは私たちの番よ!」
ヒナはもうマナが無いはず。私も逃げ切れるほどじゃない。
「クッ……」
チーターにはやっぱり勝てなかった……。
でも一矢報いたのは頑張ったかな。
そんなことを考えていた時、窓の外から【
「お姉、ここはまずいよ」
「チッ……クソ!」
「シズネ! 私たちも!」
「うん! 【
【
その瞬間、私たちがいた建物に【
衝撃でそのまま吹き飛ばされダメージを受けるが、チーターに狙われていた危機は脱したと思う。
そして【
「サ、サンディーさん!?」
サンディーさんは私たちにニコッと一度微笑むと、そのまま逃げていくチーターを追いかけていく。
そしてそれはサンディーさんだけじゃなかった。
サンディーさんに続いて、何人ものプレイヤーがチーターのあとを追いかけていく。
十人、二十人、いやもっといるかもしれない。
その中には私たちが戦った銃を乱射していた人や、【
それら全員が一直線に、戦線から離れようとするチトセと、騎士姿の女の子へ向け魔法を放ち、距離を詰めようとしていた。
悪を追い詰める正義の部隊! そんな光景になんだか見とれてしまいそうになる。
「か、かっこいい……これって、どうなってるの?」
「ふふ、これは熱い展開かもね。とりあえず私たちは回復に専念するよ。今の状況はそこで説明するからさ」
「うん」
◆◆◆◆◆
「よし、あとは回復するのを待つだけかな」
遠くではチーターを倒すべく集まった人たちの戦う音が聞こえてくる。
「私たちは参加しないの?」
「回復してからだね。それに今集まってる人はみんなかなり上手なプレイヤーだから、簡単にはやられないと思うよ」
確かに遠目で見ているだけでも、チーターの攻撃を上手に回避していた。
障害物を使い、体を晒す時間を最小限にして、ダメージは受けても倒されないような戦い方を徹底しているみたいだ。
「ってそれより、さっきは時間がなかったから聞けなかったけど、どうして私が隠れてるのバレなかったの?」
ヒナに隠れてもらっていたのは、部屋を入ってすぐの天井付近。
普通ならチーターじゃなくても気がつきそうな場所なのに、どうして気づかれなかったのか。
「それは、優先順位の問題だよ。ヒナが相手の立場だったら、ああいうとき危険な場所から順番に見るでしょ?」
人は自然と確認する場所に優先順位をつける。今回の場合は危険な場所ほど優先度は高くなる。
さっきの状況で一番危険なものは、言うまでもなく反撃する力を持った私。
そしてその次に危険なものは、伏兵の可能性がある家具やソファーだ。
そんな危険なものが正面に並んでいたら、どうだろう?
チーターはそれらを確認することで他への意識が低くなる。なまじチート能力で危険な二つの場所の安全を確認したせいで、見るべきものは私に絞られる。
私がヒナと一緒に隠れていたら、部屋中を見渡されてすぐに発見されていたかもしれないけど、私という危険な存在を正面に置くことでヒナを探すという選択をとらせないようにしたんだ。
「それも目立たないための術って事?」
「そういうこと、すごいでしょ!」
「すごいというかなんというか……正直言ってあきれた」
「えぇ~、なんでよ!」
チーターを相手にここまでできたんだから、正直褒めてほしいんだけど。
「でもさ、それならシズネが隠れてたらよかったんじゃないの?」
「私だったらあの距離でも、攻撃外しちゃいそうだからさ」
「確かにマスターが【
【
手元から散弾を発射するから、距離が離れればダメージは極端に小さくなる。手元から放たれた散弾を相手にしっかりと当てるのも難しいし、私がやっても失敗しそうだった。
「そういう理由か……うん結果的には失敗しちゃったけど、いい作戦だったと思う!」
「ネクラマスターの実力発揮ですね!」
「だからネクラじゃなくって気弱なの!」
本当に作戦はうまくいったと思う。予想外だったのは、あの騎士の女の子。
チトセのパーティメンバーだと思うけど、まさか助けに入られるなんて……。
「そういえば、あの女の子はチート使ってるのかな?」
「使ってると思うよ。壁越しだったのに、完璧なタイミングで助けに来てたし、ウォールハックで見てたんじゃないかな」
「あ、確かに」
倒すべきチーターは一人だと思っていたけど、本当は二人いたというわけだ。
「それでさ、今ってどういう状況なの? サンディーさんって倒されたはずなのに」
「ん~、どこから話そうかな。とりあえずサンディーさんは仲間に復活させられたんだと思うよ」
言われて気が付いた。というか普通に考えればそうなるよね。
私たちが二人組でゲームに参加しているように、サンディーさんも仲間と一緒にゲームに参加している。
サンディーさんが倒されたあと、仲間に復活してもらい戦線に復帰した。ということだろう。
「それで、今の状況だけど疑似的な協力プレイって説明になるかな?」
「疑似的? 何それ?」
「う~んとね、このゲームにはチーミングっていう違反行為があるんだよ」
「ちーみんぐ?」
そんなオウム返しの質問に、ヒナは丁寧に教えてくれた。
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