第21話 レッツダイブ!
「さあ、レッツダイブだよ!」
「いやいや、シズネ……これ本当に必要?」
「うん、もちろん!」
ヒナと私が一緒に王都グリモへと向かう道中。
他のプレイヤーに見つからないよう、深い森の中を移動しているときのことだった。
目の前に広がる泥沼!
それを見た瞬間に私はピンと来たってわけだ!
これは泥だらけになるしかないって!
私がヒナを復活させるために逃げ回っていた時と同じように、今度は私とヒナの二人で泥だらけになり、敵に発見されないようにしようという作戦だった。
「チーターと戦う前に、ほかの魔法少女に見つけられたらダメでしょ! ほら、思い切って行っちゃおうよ!」
「それはそうだけど……いやいや、でもさすがに泥だらけになるっていうのは、ねえパルちゃん?」
「そうですマスター! 私たちは由緒正しき魔法少女! かわいく、まっすぐで、時に華憐なその姿に大きいお友達も、小さなお友達も熱狂するというものです! 泥だらけになるなんて言語道断!」
なんかパルちゃん、チーターに対する怒り以上に魔法少女が泥だらけになることに怒ってない?
いや、でもこれだけは譲れない! できることならほかのパーティと戦いたくない!
そのためにも、泥だらけになるのは必須だ!
「でもパルちゃん、前に私が泥だらけになったときは、何も言わなかったでしょ」
「あの時は、不可抗力でしたからね」
逃げている途中で、転んで泥だらけになったんだよね。
事故で泥だらけになるのはしかたないけど、自分から泥だらけになるのは許せないらしい。
「じゃあどうすれば、泥だらけになってくれるのよ?」
「どうすればって、やらなきゃダメ?」
「うん!」
見た目の情報っていうのはすごく大きい。人から発見されないための一番の方法は見た目を地味にすることだ。派手な見た目だと否が応でも注目されるけど、地味な服装なら相手に気づかれず目標を達成できる。
だから私は洋服を買いに行くときは、むちゃくちゃ地味な服で誰かの付き添いです、買い物をするつもりはありませんってオーラを出すことで、店員さんからの質問攻めを回避している。
この状況でだれにも見つからずチーターと戦うためには、泥まみれになるのは必須なのだ!
「ではマスター、エモート八九番を使用するという条件はどうですか?」
「は、八十九番!? それはさすがに……」
驚いて声を上げたのはヒナだった。
いや、なにその八十九番って。
「ですが、これくらいしていただかないと、私の気持ちは晴れません! さあマスター八十九番です、やりますか? やらないですか?」
「えっと……その八十九番ってどんなエモートなの?」
というか、そもそもパルちゃんに認めてもらわなくてもいいような……。
でも、パルちゃんが怒ったまま戦いに向かうのは遠慮したいし、私にできることならやってみようかな。
「八十九番っていうのは、なんていうか、その……ちょっと大人っぽいポーズなんだよね。通称メヒョウのポーズとか言われててさ……」
「めひょう? 大人っぽいって結構かっこいいんじゃないの? それでパルちゃんが満足してくれるのなら別にいいけど」
「おぉ! 本当ですかマスター! いや~、しかたありませんね、マスターがそこまで勝負に真剣に取り組もうというのなら、私もお二人が泥まみれになるのを認めざるを得ません!」
「わ、私はやめたほうがいいと思うけど……」
「いいからいいから。チーターを倒すためなら、これくらいどうってことないよ! 【エモート起動八十九番】!」
そうして私は、このゲームを始めたことを心から後悔することになるのだった……。
◆◆◆◆◆
「うぅ……もうお嫁にいけない……」
「私は止めたよ」
「だって、あんなポーズだと思わなかったんだもん! あんなハレンチなの!」
「いやいや、素晴らしかったですよマスター! しっかりと画像と動画で保存させていただきました! これは家宝にさせていただきます」
「しなくていい!」
はぁ……でもこれでパルちゃんが怒ることはないと思う。
別にヒナとパルちゃんしか見てないんだし、そこまで気にする必要もないのかな?
「言い忘れてましたがマスター。ゲーム内の映像はすべて保存されていますので、この試合内容はだれでも後で見返すことが可能です」
「ど、どういうこと?」
「えっとね、シズネの今のポーズとかこれまでの戦いは、だれでも見られるってこと」
「なんでそういうこと、もっと早くいってくれないのよぉ!!」
「言ったらマスターはやってくれないと思いましたので」
「そりゃそうでしょ!」
ちなみにヒナ曰く、チーターが出た試合はネットで話題に上がりやすいため結構な人の目に触れるということだった。その中で初心者プレイヤーの私のことを見る人がいれば今の行為が見られてしまうということだ……。
「はぁ……」
「まあまあマスター、落ち込まないでください。これでチーターとの戦いに万全の状態で挑めますよ」
心の中でパルちゃんのことを鬼畜ステッキと呼ぶことに決めた! 決定!
「やっちゃったことは、後悔してもどうにもならないしね。じゃあヒナ飛び込もっか」
そしてヒナの手をつかむも、ヒナは動こうとしなかった。
「えっと、今のはパルちゃんのお願いで、私は飛び込むなんて言ってないんだけど……」「……」
「いいから飛び込めーーーーー!!!」
「う、うわあああああ!」
ヒナの手を引っ張って、そのまま一緒に泥沼へとダイブする!
ドプン、という粘土の高い音と一緒に、私たちは全身泥まみれになったのだった。
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