第17話 楽しいを集める
「はぁ……はぁ……」
ゆっくりと深呼吸して荒くなった息を落ち着ける。
さっきヒナと別れた場所から、走り続けて森の中へとやってきていた。
かなりの距離を移動してきたし、その間攻撃は一度も飛んできていない。
ヒナがうまく相手をひきつけてくれたんだと思う。
「ヒナから連絡は来てないよね」
「はい。こちらから音声通話をかけることもできますが」
「ううん、やめとく。戦ってたり隠れてるところだったら悪いから」
「了解しましたですよ!」
とりあえず、チーターの脅威は去った。
あとはヒナと約束した、サンディーさんのいた場所へ向かうだけだ。
「そういえばパルちゃん。あの時ヒナが使ってたカードってどんな効果なの?」
「【
「三回でなくなる!? さっきヒナ二回受けてたよね?」
「はい。かなり不利なのは間違いないかと。ですがチーターへの対抗手段としては一番現実的なものでもあります。普通に戦っても勝てないので防御しながら逃げるのが一般的な対処法ですから」
防御用のカードをヒナが持っていることに少し違和感があったけど、ゲーム内のチーターへの対抗手段として、持っていたって事だったんだ。
「じゃあ私は、ヒナのこと信じてサンディーさんのお店にいかないと」
マップを開いて今自分がいる場所を確認する。
サンディーさんがいる商業都市マイノルへは、そこまで距離は離れていない。
【
「パルちゃん、さっき私たちが戦っていた場所からここまで、攻撃って届くのかな?」
「有能サポーター、パルちゃんの計算によると届かないですね! 障害物になるものが多いので、射線は切れてますですよ! ただ、【
狙撃可能か……。
それなら、安全策で森を通るしかなさそうかな。
今後の動きを決めると、私は移動を開始した。
◆◆◆◆◆
できるだけ目立たないように移動していたから、かなり時間がかかったけど、なんとかサンディーさんのお店にやってくることができた。
お店の扉を開けて中へ飛び込むようにして入っていく。
「サンディーさん!」
お店に入ると、サンディーさんはゆっくりとお茶を飲んでくつろいでいた。
「まあ、シズネちゃん。どうしたんですか? また仲間のヒナちゃんがやられちゃいましたか?」
「そうじゃなくて、えっとですね……」
そして私はここを出てからの話やチーターの話。
ヒナと別行動をすることになった経緯や、集合場所をこのお店にした話を説明していく。
「サンディーさんも逃げたほうがいいですよ! 狙われちゃいます」
「確かにそうですね。ほかの街に行って、そこでまたお店を開きましょうか」
そして荷物をまとめるサンディーさん。
あとはヒナの到着を待って逃げればいいだけだ。
きっとヒナがいれば、うまく逃げ切れるはず。
「そうだ、初めて戦った感想はどうでしたか?」
荷物をまとめる手を止めず、サンディーさんが問いかけてくる。
「えっと、難しかったです。私の攻撃全然当たんなくて」
「ふふ、初心者ならそんなものですよ。慣れれば相手の魔法弾を自分の魔法弾で撃ち落とすことも、できるようになるんですから」
「いや、それは無理じゃないですか?」
魔法弾の速度は攻撃魔法の種類によってバラバラだけど、かなりのスピードだし、普通は無理だと思う。
だけど、にこにこと微笑みながら話すサンディーさんを見ていると、あながち嘘じゃないのか? と思えてくる。
「でも、その様子だとゲームを楽しめてるみたいですね」
「はい! チーターがいるっていうのは嫌だけど、ヒナと一緒に魔法少女みたいに戦ったりするのは、なんだか夢が叶ったみたいです」
「良い仲間に巡り合えたんですね」
「はい!」
ヒナと隣で胸を張ってドヤ顔のパルちゃん。二人がいたからこそ、初心者の私でもこれだけゲームを楽しめるんだ。
「ふふ、私はこうやって色々な人の、楽しいを聞かせてもらうのが好きなんですよ」
「楽しいを聞く?」
「ええ、このゲームには敵と戦うことを楽しむ人がいれば、戦術を考えるのを楽しむ人、街並みや国の歴史を考察して楽しむ人に、私みたいな変わり者まで、たくさんの人がいます」
思い返してみると、確かにいろんな人がいた。
ずっと魔法弾を乱射している人や、【
あれも楽しみ方の一つなんだと思う。
「私がお店を開いて、色々な人とお話するのは、そういう楽しいことを集めるためなんです。だからシズネちゃんの楽しいを聞けて、本当によかったわ」
楽しいを集める。どうしてサンディーさんはわざわざゲームの中で、そんなことをするんだろう?
その疑問を口にしようとしたとき、サンディーさんは荷物をまとめる手を止めた。
サンディーさんの手元を確認すると、まだ魔法カードをまとめただけで回復の宝石や特殊アイテムがまとめきれていなかった。
どうして手を止めたんだろう? 首をかしげる私にサンディーさんはにっこりと微笑んで見せた。
「ほんとはもっと、お話していたかったんですけどね」
そしてサンディーさんは――。
私の前に飛び出した。
「え?」
ズドン――と壁が壊れる音がして、サンディさんに魔法の矢が突き刺さる。
「私のお客さんは、店主として傷つけさせないわ!」
何が起きたのかわからなかった。あまりにも突然の出来事すぎて頭がついていかない。 でも、目の前で私のことを体を張って守ってくれたサンディさんを見ていると、今の現状が嫌でも頭にたたきつけられる。
「シズネちゃん。あなたたちなら、もっと楽しい試合ができるはずですよ。だからこんなところであきらめないでくださいね」
そしてサンディさんに、もう一本魔法の矢が突き刺さり、お墓へと姿を変える
窓の外へ目を向けると、少し離れたところに魔法少女の姿が見えた。
ゴシック調のドレスに身を包み、サンディーさんがお墓になったのを見て、ニヤリと笑った。
壁越しで正確な二度の射撃。
これは――チーターの狙撃だ。
気が付かない間に、ヒナから私へと狙いを変えたんだ。
そして攻撃に気づいたサンディーさんが私をかばって……。
「マスター! 次が来ます! 避けてください!!」
私はごめんなさいと謝りながら、急いでお店から飛び出していった。
「パルちゃん! 近くの森に逃げるよ! 道を教えて!」
「了解です!」
そして【
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