第16話 夢と目的

「シズネはプロゲーマーって言葉知ってる?」

「………………あ、あれだよね! うん、知ってる知ってる! 最高! 私大好きだよ!」

「いや、知らないならそう言ってくれればいいんだけど……っていうか、なんで見え透いた知ったかするの!」

「うぅ、知りません」


 だって、もしかしたらごまかせるかなと思ったんだもん。


 ヒナから昔チートを使った理由を聞こうとしたところ、なぞの言葉について聞き返されていた。


「プロゲーマーっていうのはプロ野球選手とか、プロゴルファーみたいな感じで、ゲームのプロってことだよ」

「ゲームのプロ!? そんな人いるの?」

「うん、有名な選手もたくさんいるんだよ。ゲームの大会に出て賞金を稼いだり、動画配信で人気者になったりとか、いろいろな選手がいるの」


 ゲームっていうのは、ただの遊びだと思ってた。まさかプロがいて、お仕事として成立してるなんて……。


「私はね、このプロゲーマーを目指してたんだ」

「おぉ、すごい!!」


 プロゲーマーを目指す! ヒナの言葉はなんだかかっこよかった。

 プロ野球選手を目指す、プロゴルファーを目指す、どんなものであれ、自分の夢を語れる人はかっこいい! 私なんて将来の夢とか考えたこともないのに。


「このMKDで大会に出て優勝する! そんな夢を見て仲間と一緒に大会に出たりしたんだけど、私の実力だと難しかったんだ。大会はどれも予選で負けてばっかりだしね」

「あんなに強いのに!?」


 これまでヒナと一緒にゲームをプレイしてきたけど、驚くぐらい上手だった。

 一人で危機を乗り越えたり、初心者の私をサポートしながら、あれだけ戦えているのに。


「うん、全然ダメ。いろいろ自分のプレイを研究したり、うまくなるために何時間も弾を当てる練習とかして努力したつもりだけど、それでも結果が残せなかったんだ」


 なんとなく、ヒナがゲーム上手なのはもともと上手だったからだと思ってた。でも、撃った弾があたるのも、戦い方も、敵を倒す戦略も、全部練習したからできたことなんだ。


「それでさ、どうしても勝てるようになりたいって思ったときに、チートの販売業者から声がかかったってわけ。普段だったら運営に通報するんだけどね……」


 うまくいかずに辛い時だってある。私にはそこまで全力で頑張れることはないけど、きっとすごく苦しかったんだと思う。

 うん、やっぱりヒナを責めようとは思わない。

 強くなりたいって気持ちは誰だって持ってるものなんだから。


「ありがと、話してくれて。やっぱり私はヒナが悪いって思わないよ! 今の話なら悪いのはチートの販売業者でしょ!」

「いや私も悪いよ。ゲーム的にはチートは禁止ってわかってたことだしね。ホント反省してる。自分から運営に自首してアカウントを停止処分にしてもらったんだよ」

「わお、かっこいい!」

「三ヶ月間ゲームできなかったけど、それからは気持ちを入れ替えたんだ。強くなることも大切だけど、それよりも楽しくゲームをするのが大切だって!」

「うん、私もそう思う。やっぱりゲームは楽しくないとね! ヒナの暗い顔見てられなかったよ」

「あ、あはは……ごめんね。こっからは楽しんでいこう」

「うん!」


 そして落ち着いたとき、空気を読んで引っ込んでいた、パルちゃんが表れた。


「いや~、いいですね。パートナーの過去を知り、今まで以上の友情が芽生える! 王道の魔法少女ですよ、マスター!」

「いやいや、大げさだって。っていうかパルちゃんはヒナが昔チートを使ったことがあるってわかってたんじゃないの?」


 自分から運営に自首したって言っていたし、ゲームの機能であるパルちゃんは知っていたんじゃないかな?


「はい、もちろんです! ですが、アカウント停止期間も経過していますので、私たちからすれば、優良なプレイヤーの一人です。そんなプレイヤーの情報を報告するのはマナー違反ですからね」

「優良プレイヤーか、そういってもらえると自首してよかったよ」

「ヒナさんがチート行為を黙っていた場合、今の会話からチート行為の代償としてアカウントの永久凍結もありえましたからね。いい判断だと思います」


 永久凍結って、なんだか怖い響きだなぁ。


「とにかく! これで一件落着ってことでいいよね?」

「うん、大丈夫! 隠し事もやましいこともないよ。あとはゲームを楽しもう!

「よーし、じゃあ楽しく優勝目指そう!」


 オー! と掛け声を上げようとしたとき――

 家の外から飛んでくる魔法の矢が視界に入った。

 私と同じように、ヒナもそれに気が付いたようで、とっさにヒナが私の前に飛び出した。


「【防御プロテクト】セット!!」


 ヒナのステッキから、魔法の盾が現れる。

 私たちの潜んでいた建物ごと、破壊しようと飛んできた魔法弾は盾にぶつかると、パシンという音を残して消滅した。


「ヒナ! 大丈夫?」

「何とかね……」


 家の外へと目を向けると、離れた高台の上に立った魔法少女が、私たちを見下ろしていた。


「シズネ、逃げて! あいつたぶんチーターだよ!」


 家の中に隠れていた私たちを、離れたところから見つけられた。

 それが証拠になるほどではないけど、今の状況を考えれば確かにチーターの可能性は高い。


「で、でも、ほかの敵を狙うってヒナ言ってたでしょ」

「何か好かれることでもしちゃったみたいだね」

「そんなぁ……」


 そしてもう一発、魔法の矢が発射される。

 ヒナの盾にパシンとはじかれて消えていったが、ヒナの表情は明るくなかった。


「もう時間はないよ。私はなんとか生き残るから行って!!」


 プロゲーマーを目指していたヒナなら、確かに一人でチーターから逃げ延びられる可能性はあると思う。

 初心者の私はあきらかに足手まといだった。


「わかった……サンディーさんのところで落ち合おう! 待ってるからね!」


 そして私は走り始める。

 後ろからはいまだに攻撃の音が続いていた。

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